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バイヨン寺院[Bayon]大宇宙を模した万神殿と「クメールの微笑み」

大都城アンコール・トムの中心に位置する「バイヨン寺院」は、アンコール・ワットと並んでカンボジアの遺跡の象徴的スポットになっています。12世紀末ごろにジャヤヴァルマン7世によって建立されました。

巨大尊顔が建ち並ぶ独特の光景を映像などで目にしたことのある方も少なくないはず!

今回はそんな超定番の人気観光スポットである「バイヨン寺院」の歴史と鑑賞ポイントをわかりやすくご紹介します!

CN編集部

歴史や背景知識があると遺跡観光がさらに楽しめるので、ぜひ訪問前に全体的な情報をチェックしておきましょう!

バイヨンってどんな遺跡?

ジャヤヴァルマン7世が建てた万神殿

バイヨン寺院が発見された当初から、どの宗教に捧げられた寺院なのか、研究者の間で議論があったといいます。ヒンドゥー教のシヴァ派とする説やブラフマー説、大乗仏教説など、さまざまな推測が飛び交っていました。

その理由の一つは、寺院の壁面や祠堂にさまざまな神々の姿が刻まれていたことです。シヴァ神やヴィシュヌ神などヒンドゥー教の神々が描かれている箇所もあれば、床下からは観世音菩薩の浮き彫りも発見されています。また、四面塔に刻まれているのは観世音菩薩だと一説には言われています。

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バイヨン寺院が、ヒンドゥー教だけでなく、仏教も奉じていたことが装飾から確かめられています!

ここから考えられるのは、バイヨン寺院は一つの宗教宗派を祀ったものではなく、クメール帝国のあらゆる神々や精霊に捧げられた一種の万神殿パンテオンだったとする説です。

バイヨン寺院を建設したジャヤヴァルマン7世は大乗仏教に帰依していたと言われていますが、だからと言って他の宗教が迫害されることはありませんでした。信仰の違いはあれど、基本的にはそれぞれの宗教がうまく共存していたと考えられています。

バイヨン寺院は、構造上では大乗仏教様式に建立されましたが、仏教とヒンドゥー教などあらゆる神々と精霊を奉じている万神殿パンテオン、もしくは八百万やおよろずの神の館と考えるとよいかもしれませんね。

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信仰している宗教に関わらず、国内すべてを安寧に導こうとしたジャヤヴァルマン7世の懐の深さが表れている場所なのかもしれませんね

ジャヤヴァルマン7世って
どんな王様だったの?

バイヨン寺院が象徴するクメール的宇宙観

バイヨン寺院は、古代インドの神話に登場するメール山(須弥山しゅみせん)を象徴していると言われています。メール山とは、古代インドまたは仏教の宇宙観で神々が住まうとされている場所です。当時のカンボジアにおいて、この宇宙観を表現することが重要とされていました。

寺院がメール山だとすると、それを取り囲む城壁はヒマラヤの霊峰、環濠は大海を象徴していると考えられます。

あらゆる神々を祀ったバイヨン寺院をアンコール・トム都城の中心に配置することにより、当時のカンボジアのクメール的宇宙観を表現していたのかもしれませんね。バイヨン寺院は、まさに「宇宙の中心」だったと言えます。

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上空からバイヨン寺院を眺めると、曼荼羅まんだらのように見えるとも言われています。構造にも何か深い意図が込められているのかもしれませんね

バイヨン遺跡の基本情報
  • 時代:12世紀末〜13世紀末
  • 宗教:仏教、ヒンドゥー教
  • 建設した王:ジャヤヴァルマン7世
  • 建築様式:バイヨン様式
  • 寺院形態:ピラミッド型
  • 見学時間の目安:1時間30分

「クメールの微笑み」と呼ばれる尊顔

バイヨン寺院には、52基の塔が確認されていて、それらの四方に巨大な尊顔が彫り込まれています。その数は現存しているものだけでも173面! 果たして一体誰の顔なのか、ここでも色々な説が飛び交っています。

ジャヤヴァルマン7世が信奉していた「観世音菩薩」とする説が有力ですが、王自身の顔だと考える説もあります。たしかに、ジャヤヴァルマン7世の彫像と表情の雰囲気が似ているかもしれませんね。碑文などの記録が残っていないため、真相はいまだに謎に包まれています。

四方を遍く照らすこの柔和で穏やかな表情は「クメールの微笑み」とも呼ばれています。

この「四面仏」のデザインは、バイヨン寺院だけでなくほかの遺跡でも目にすることができます。同じくジャヤヴァルマン7世によって建立された、プリア・カン、タ・プローム、バンテアイ・クデイタ・ソムなど、バイヨン様式の遺跡に共通する意匠です。

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尊顔のデザインは、実は一つひとつ微妙に異なっています。目を閉じている顔もあれば、はっきりと目を見開いたものも。ぜひじっくりと観察してみてくださいね!

2024年7月現在、中央祠堂に続くテラスは、遺跡修復のため立ち入りが禁止されています。観光再開の目処はまだ立っていません。

「アンコール・ワット」と「アンコール・トム」って何がちがうの?

どちらも名前が似ているので、初めて耳にした人は混乱するかもしれませんね。

アンコール・ワットは、スールヤヴァルマン2世が1113年から約30年かけて建造した石造大伽藍です。ヒンドゥー教の宇宙観を基にしていて、ヴィシュヌ神に捧げられました。つまり、アンコール・ワット自体が一つの巨大な寺院として存在しています。

一方でアンコール・トムは、一辺約3kmの城壁で囲まれた都城です。建造自体は1020年ごろから始まっていましたが、ジャヤヴァルマン7世の時代に最盛期を迎えました。都城の中には十字に主要道路が通っており、王宮や各寺院、象のテラス、ライ王のテラスなどが配置されています。当時、都城内には王族だけでなく多くの人々が暮らしており、1つの街(都)として機能していました。

バイヨン寺院への行き方

バイヨン寺院は、アンコール・トムの中心に位置しています。

シェムリアップの中心からは、トゥクトゥクで30分程度です。アンコール・トムだけの見学なら、トゥクトゥクを半日で10〜15ドル程度でチャーターできます。

アンコール・トム内にはほかにも見どころがたくさんあるので、セットで観光することが多いです。バイヨン寺院から観光を始めて、バプーオンピミアナカス、王宮跡、象のテラス&ライ王のテラスなどを訪れるのが一般的です。

アンコール・トム

アンコール・トム内の見学は、バイヨン寺院も含めて日陰が少ないので、できるだけ涼しい時間帯に訪問するのがオススメ! せっかくなら早起きして、朝の時間帯に見学しましょう。

CN編集部

自転車で見学している人も見かけますが、アンコール・トム内だけでも結構広いので体力配分には気をつけてください。電動バイクを利用する人は、バッテリーの残量チェックもお忘れなく!

バイヨン寺院の見どころ

ここからはバイヨン寺院の見学のポイントや特徴をご紹介していきます!

カンボジアを代表するメジャーな遺跡の一つであり、鑑賞ポイント満載の場所なので、ガイドさん付きで観光するのもオススメです。

アンコール王朝の歴史や、見落としやすいレリーフ、撮影に適したスポットなどを教えてくれるので、機会があればぜひ検討してみてくださいね!

Klook.com

十字型を基本とする複雑な構造

バイヨン寺院は、建築中または建築後に設計変更が行われたこともあり、内部は複雑な構造をしています

基本的には東西南北の基軸による十字型です。東側に突き出したテラスが2つの聖地に挟まれるように配置されていて、そこが正面になっています。

中央祠堂のエリアを取り囲むような形で、第一回廊(外側)と第二回廊(内側)が配置されています。第二回廊には、外光が差し込まない暗いエリアも多く、迷路のように複雑な構造をしています。

そのため、バイヨン寺院は実際に冒険しているような気分を味わえる遺跡です。ぜひこの独特で不思議な空間を体感してきてください!

CN編集部

ぐるぐる周っていると、自分の現在地が分からなくなってしまうことも……。観光の際には足元にもご注意ください!

第一回廊の壮大なレリーフ

バイヨン寺院の見どころと言えば、第一回廊に施された見事な浮き彫り! まるで絵巻物のように当時の出来事や人々の生活の様子を後世に伝えてくれています。

アンコール・ワットのレリーフは、王自身や神々の世界をモチーフにしたものが多いのに対し、バイヨン寺院では末端の兵士や庶民の日常風景を描いています。人々の暮らしにも目を向けたジャヤヴァルマン7世の治世のあり方が表れているのかもしれませんね。

ここでは代表的な見どころをご紹介するので、ぜひ実際に訪れた際にはご自身でも探してみてくださいね!

浮き彫りに描かれているもの
  • 東側壁面 [East Section]
    1177年にチャンパ軍によって占領されてしまったアンコール都城を奪還するため、ジャヤヴァルマン7世が率いるクメール軍が反撃。1181年にチャンパ軍を撃退したときの様子が描かれています
    • 象の部隊の行軍
    • 軍隊を鼓舞する従軍楽団
    • 中国人の傭兵の姿
    • 戦勝祈願のために生贄として捧げられた水牛
  • 北側壁面 [North Section]
    王宮内の様子を描いたエリアで、北面は制作途中の部分が多く残っています。どうやら参拝者が多く訪れるであろう東側と南側の壁面から作業を進めていたようです。
    • クメール軍を攻撃するチャム軍
    • 負傷した指揮官を支える2人の兵士
    • 曲芸を披露するサーカス団の様子
    • カンボジアの武芸、ボッタカオの様子
  • 西側壁面 [West Section]
    西側も未完成の部分が多いエリアで、インドラ神を讃える碑文が残っています。また、当時国内で勃発していた内戦らしき様子を描いたシーンもあります
    • クメール人の兵士同士で闘う姿
    • 鹿を飲み込む巨大な魚
    • 凛々しく精悍な表情をしたクメール人の兵士
    • 虎から逃げるバラモン僧
  • 南側壁面 [South Section]
    南側の壁面は、上段・中段・下段に三分割されています。上側には当時のトンレサップ湖での戦いの様子、下段には一般の人々の日常生活が描かれています。
    • 凱旋を祝う宴のための食事を準備する風景
    • クメール人と中国人で闘鶏をしている場面
    • 女性が出産している場面
    • 狩の途中で虎に襲われている人
    • 水中に落ちた兵士がワニに食べられている場面
戦勝祈願のために生贄として捧げられた水牛
トンレサップ湖の戦の様子
さまざまな水中の生き物
戦に向かうクメール軍の様子

迷路のように入り組んだ第二回廊

実は第二回廊の壁面にも、数々の浮き彫りが残っています。第二回廊では主に神々の姿や王宮内の様子を描いており、東西南北でそれぞれの神ごとに分かれています。

外側から見る第二回廊と中央祠堂
浮き彫りに描かれているもの
  • 東側壁面 [East Section]
    東面は主に王家の様子を描いています
    • 王と2人の妃(姫?王子?)の姿を描いた場面
    • 義理の父である蛇王と闘う王の姿
      蛇の返り血を浴びた王が病にかかり、治療する姿が描かれています。1965年にアンコール・トムを訪問した三島由紀夫は、この伝説に着想を得て、戯曲『ライ王のテラス』を描き上げたそうです。
  • 北側壁面 [North Section]
    北面はシヴァ神を中心に描いています
    • シヴァ神とその妻ウマが聖牛ナンディンに乗っている姿
    • 10本の腕を持ち、踊っているシヴァ神
    • 魔王ラーヴァナがカイラス山を動かそうをする様子
  • 西側壁面 [West Section]
    西側はヴィシュヌ神を中心に描いています
    • ヴィシュヌ神による乳海攪拌と不死の秘薬アムリタ
    • ガルーダの上に乗り闘うヴィシュヌ神
    • 髪を結い化粧をする女官
  • 南側壁面 [South Section]
    南面は仏教にまつわる逸話などを描いています
    • ヴィシュヌ神に捧げ物をする王や人々
      王は最上級の礼拝方法である「五体投地」をしています
    • 修行僧たちに教えを説くシヴァ神の姿
蛇王と闘う王の姿

第二回廊は見学の際に見落としがちな場所でもありますが、見事な浮き彫り(レリーフ)がいくつかあるので、時間と体力に余裕のある人は探してみてください。

第二回廊の内部にはリンテル(まぐさ石)の装飾も残っています。また、いくつかの仏像は意図的に削り取られてしまっているものもありました。一部のシヴァ派が行った「廃仏毀釈」による影響だと考えられます。

「廃仏毀釈」については
こちらで解説!

173の巨大な尊顔が立ち並ぶ中央祠堂とテラス

バイヨン寺院の象徴とも言えるのが、中央祠堂エリアに並ぶ巨大な尊顔です。四方を向く顔は、それぞれ東西南北をはっきりと指し示しています。

近くで見ると、その巨大なスケールに驚くこと間違いなし! 神秘的な存在感を放っています。まさにカンボジアのパワースポットですね。

雨季に雨水が顔面を濡らす光景を「すすり泣くバイヨン」と呼ぶこともあります。雨の日ならではの情緒が感じられますね。

「クメールの微笑み」と称される最も人気のある尊顔は北側のエリアにあります。お札にも描かれたことのある有名なスポットです。

CN編集部

中央祠堂エリアはまさに別世界! 迷路のような第二回廊から階段を登った先にたくさんの巨大尊顔が建ち並んでいます。

窓枠をフレームに見立てて撮影

2024年7月現在、中央祠堂に続くテラスは、遺跡修復のため立ち入りが禁止されています。観光再開の目処はまだ立っていません。

美しいデヴァターとアプサラ

バイヨン寺院にも美しいデヴァターやアプサラの姿が刻まれています。

アンコール・ワットのデヴァターたちと比較すると、バイヨン寺院は装飾が控えめで、まろやかな姿をしています。時代を経て、より精神世界や内面を重視する価値観に変化していったのかもしれません。

ジャヤヴァルマン7世の宗教観なども、当時の美術様式に大きく影響していそうです。

ジャヤヴァルマン7世が建立した寺院には、このようにアプサラが舞う姿が柱によく刻まれています。寺院を訪れる人々を歓迎するかのような、明るく愛らしい姿です。

バイヨン寺院観光の注意点

日陰が少ないので暑さ対策は必須!

バイヨン寺院は基本的に日陰となる部分が少ないため、観光の際は日差しなどに注意する必要があります。

特に見どころの1つとなっている第一回廊は、一辺が100m以上あります。

日差しを遮ることができるような帽子などを忘れずに持っていきましょう! 水分補給もお忘れなく!

熱中症対策については、こちらの記事で紹介しています。

遺跡内に出没する猿に注意!

バイヨン寺院はとくに猿が集まっているエリアです。

人に慣れているので、それほど過敏に警戒する必要はありませんが、むやみに近づかないようにしましょう。

人をあまり恐れないので、猿の方からこちらに近寄ってくることもあります。

持ち物(カメラやサングラス、帽子など)を盗られることもあるので、所持品の管理についても十分気をつけてください。

CN編集部

小さい子猿さんはたしかに可愛いのですが、すぐ近くで親猿が様子を見ていることも多いです。こちらから触りにいくのは控えましょう。

バイヨン寺院まとめ

カンボジアの遺跡の中でも特に人気の高い「バイヨン寺院」についてご紹介しました!

四面仏像が特に有名ですが、バイヨン寺院の第一回廊や第二回廊に刻まれた数々のレリーフも一見の価値アリです! じっくり鑑賞していると、それだけで1時間は経ってしまうほど。

ぜひ宝探し感覚で、貴重なレリーフを歩きながら探してみてくださいね!

バイヨン遺跡の見どころ!
  • トンレサップ湖の戦いや人々の日常を描いた、第一回廊の壮大なレリーフ
  • 神々の住まう世界を鮮やかに描いた、第二回廊のレリーフ
  • 微笑みで四方を遍く照らす、巨大な観世音菩薩の尊顔