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アンコール・ワット第一回廊のレリーフ|丸わかり徹底解説【完全版】

アンコールワット第一回廊のレリーフ徹底解説

カンボジアの世界遺産である「アンコール・ワット」と聞くと、どんな姿をイメージするでしょうか?

水面に映った尖塔の姿、いわゆる「逆さアンコール・ワット」がを思い浮かべる方も多いかもしれませんね。

朝焼けに浮かび上がる独特のシルエットはとても有名で、カンボジアの国旗の中央にもその姿が描かれています。

アンコール・ワット
朝日を背後に浮かび上がるシルエット
CN編集部

でも、アンコール・ワットの魅力はそれだけではありません!

実は伽藍の内部に描かれた壮大で精緻なレリーフも見逃せないポイントの一つです!

特に第一回廊の壁面に刻まれた壮大なスケールの浮き彫りは圧巻の一言。ヒンドゥー教や古代インドの逸話をモチーフにした様々な場面が刻まれています。

直接目にするだけでも十分訪れる価値がありますが、描かれている場面の意味が分かれば、さらに遺跡鑑賞が楽しめるはずです!

今回の記事では、第一回廊のレリーフの見どころと内容をご紹介。ぜひアンコール・ワットで過ごす時間をより有意義なものにするために、最後までご覧ください!

アンコール・ワット全体は
こちらの記事をチェック!

アンコール・ワットの第一回廊とは?

アンコール・ワットの祠堂は3つの回廊に囲まれていて、外側から順に「第一回廊」「第二回廊」「第三回廊」と呼ばれています。

第一回廊の長さは東西215m、南北187mあり、東西南北それぞれの壁面にヒンドゥー教の神話などをモチーフにした場面が描かれています。

反時計回りに進みながら鑑賞することで、まるで絵巻物のようにストーリーを楽しむことができるのが特徴です。一般的には、西面から鑑賞を始めて、ぐるっと一周して戻ってくる道順となります

アンコール・ワット第一回廊

第一回廊の見どころ解説

この記事では、実際に第一回廊の写真と照らし合わせながら、それぞれの鑑賞ポイントと神話などのエピソードを解説!

東西南北の面をそれぞれ二分割し、さらに南西角と北西角のホールを加えた計10箇所を順にご紹介していきます。

CN編集部

大まかな位置関係は、下記の図面を参照しながら確認してみてください!

紹介するポイント!
  1. 西面(北側)『ラーマーヤナ
  2. 西面(南側)『マハーバーラタ』
  3. 南西角のホール『ラーマーヤナ』など 
  4. 南面(西側)「スールヤヴァルマン2世の行軍
  5. 南面(東側)「天国と地獄」
  6. 東面(南側)「乳海攪拌」
  7. 東面(北側)「ヴィシュヌ神と阿修羅の戦い」
  8. 北面(東側)「クリシュナと阿修羅バーナの戦い」
  9. 北面(西側)「アムリタをめぐる神々と阿修羅の戦い」
  10. 北西角のホール『ラーマーヤナ』など
アンコール・ワット地図
アンコール・ワット地図

基本的に反時計回りに進みましょう

時間に余裕があるのなら、西面南側(マハーバーラタ)からスタートして反時計回りに第一回廊を1周し、その後十字回廊→第二回廊→第三回廊へと進むコースがおすすめです。

もしもあまり時間がなければ、西面北側(ラーマーヤナ)からスタートして反時計回りに進み、東面南側(乳海攪拌)まで鑑賞してから、第二回廊→第三回廊に進み、最後に十字回廊を通って戻ってくるパターンも可能です。

少なくとも「ラーマーヤナ」から「乳海攪拌」にかけての部分は見逃せないポイントなので、ぜひじっくり楽しんでくださいね!

西面北側|ラーマーヤナ「ランカ島の戦い」

第一回廊の西面北側には、古代インドの大長編叙事詩『ラーマーヤナ』の一場面が描かれています。

『ラーマーヤナ』とは、『マハーバーラタ』と並ぶインドの二大叙事詩で、ヒンドゥー教の聖典の一つとされています。あまり日本では馴染みのない作品ですが、『ラーマーヤナ』の影響はインドのみにとどまらず、その存在は東南アジアの広い地域で強く根付いています

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カンボジアでは『リアムケー』と呼ばれていて、遺跡に登場するだけでなく、舞踏や影絵芝居の題材にもなっています。

日本で言うところの『桃太郎』や『竹取物語』のように、古くから人々の間で語り継がれてきた、誰もが知っている作品です。

『ラーマーヤナ』に登場する猿の将軍ハヌマーンは、『西遊記』の孫悟空のモデルになったとも言われています。

ここでは遺跡鑑賞に必要なおおまかな話の流れをご紹介します。もっと詳しく知りたい方は、ぜひ書籍などで読んでみてくださいね!

コーサラ国王の長男である王子ラーマは、美しいシータ姫を妻に迎えます。しかし、継母の陰謀によりラーマ王子は王位を奪われ、シータ姫と異母弟のラクシュマナと一緒に森で隠遁生活をすることになりました。

3人は森の中で静かに暮らしていましたが、ある日ランカ島の魔王ラーヴァナにシータ姫を奪われてしまいます。ラーマ王子は神猿ハヌマーンたちの力を借り、シータ姫奪還のためにランカ島に向かいました。ラーマ王子一行は、様々な困難を乗り越え、最終的にラーヴァナを倒し、シータ姫をようやく取り返します。

ところが、ラーマ王子は、ラーヴァナの側に長い間身を置いていたシータ姫の貞操を疑い、妻として受け入れることを拒みました。そこで、シータ姫は自身の潔白を証明するために、自ら炎の中に飛び込みました。火の神アグニがシータ姫に加護を与え、身の潔白を証明したため、シータ姫は無事にラーマ王子の元に帰ることができました。

アヨーディヤの都に戻ったラーマ王子は国民たちから歓迎され、国王として即位します。シータとの間にクシャとラヴァの2子をもうけました。

*『ラーマーヤナ』の内容は地域や時代によって異なる部分があり、原典の最初と最後の巻は後世に追加されたものとする説もあります。また、訳本によって登場人物名に表記揺れがある場合もあります

上下巻にまとまった
こちらがオススメ

第一回廊の西面北側には「ランカ島での戦い」の場面が描かれています。

ラーマ王子率いる猿の大群と魔王ラーヴァナの軍勢が壮絶な戦いを繰り広げる迫力のシーンです。

アンコール・ワット第一回廊(ラーマーヤナ)

上の写真は、猿の将軍ハヌマーン(もしくは猿王スグリーヴァとする説もあり)の上に乗ったラーマ王子が矢を放つ場面です。

ラーマ王子は、ヴィシュヌ神が人間として生まれ変わった姿とされており、超人的な力を持った人物として描かれています。

ラーマ王子の後ろに控えているのが、ラーマの異母弟であるラクシュマナです。さらにその後ろにはヴィビーシャナが描かれています。ヴィビーシャナは、魔王ラーヴァナの弟でありながら清い心を持った人物で、ラーマたちの戦いに協力をしました。

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「ヴィシュヌ神は10の化身となり世界を混迷から救う」と言われています。アンコール・ワットの第一回廊では、「亀の王クールマ」や「ラーマ」、「クリシュナ」の姿としてヴィシュヌ神が色々なところに登場しています。

  • 第1の化身:マツヤ(角が生えた魚)
  • 第2の化身:クールマ(亀の王)
  • 第3の化身:ヴァラーハ(牙を持った猪)
  • 第4の化身:ナラシンハ(獅子の頭と人間の体)
  • 第5の化身:ヴァーマナ(小人)
  • 第6の化身:パラシューラマ(斧を持つラーマ)
  • 第7の化身:ラーマ
  • 第8の化身:クリシュナ
  • 第9の化身:ブッダ(仏教の開祖)
  • 第10の化身:カルキ(白馬の騎士)
アンコール・ワット第一回廊(ラーマーヤナ)

ラーヴァナはランカ島(現在のスリランカ)を本拠地とする羅刹の王で、10の頭と20の腕を持っています。

多くの神々を隷属させ、権勢を振るっていましたが、最終的にラーマ王子(ヴィシュヌ神が人間として降臨した姿)によって討たれました。

アンコール・ワット第一回廊(ラーマーヤナ)
猿軍のニーラ(火の神アグニの子)が魔王軍プラハスタに噛み付く場面

ランカ島の戦いでは、多くのヴァナラ族(猿族)たちがラーマ王子の味方として戦いました。

中でも有名な猿の将軍ハヌマーンは、知恵者としても知られており、ストーリー上で重要な役割を果たします。ランカ島で囚われていたシータ姫を見つけ出したり、ラクシュマナの危機を救ったりしました。

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ぜひ第一回廊の西面北側のレリーフで大奮闘する猿軍たちの姿をじっくり鑑賞してみてくださいね!

アンコール・ワット第一回廊(ラーマーヤナ)
獅子と取っ組み合いをする猿
アンコール・ワット第一回廊(ラーマーヤナ)
馬の口に噛み付く猿
アンコール・ワット第一回廊(ラーマーヤナ)
2頭の獅子を吊し上げる猿

西面南側|マハーバーラタ「クルクシェートラの戦い」

第一回廊の西面南側には、古代インドの大長編叙事詩『マハーバーラタ』の山場が描かれています。

『マハーバーラタ』とは「バラタ族の戦争の大史詩」という意味で、バラタ族(別名、クル族)が2つの陣営に分かれ、同族同士で凄惨な戦いを繰り広げる姿を描いています。

世界で最も長い叙事詩と言われていて、約10万もの詩句で編まれているとも言われています。紀元前3世紀ごろに原型が生まれ、紀元4世紀ごろには全18章構成の現在の形式になったそうです。

アンコール・ワット第一回廊(マハーバーラタ)

第一回廊で描かれているのは、『マハーバーラタ』の山場とも言える「クルクシェートラの戦い」のシーンです。両陣営が王位を巡って18日間にもわたる壮絶な戦いを繰り広げました。

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『マハーバーラタ』はストーリーが長く、登場人物も多いので混乱しやすいのですが、超簡潔にまとめると「パーンダヴァ軍とカウラヴァ軍が王位をめぐって死闘を繰り広げる物語」ということになります。

もうちょっと詳しく知りたい!という方は、下記のあらすじを読んでみてください

クル族には、兄ドリタラーシュトラ弟パーンドゥという王子がいました。ドリタラーシュトラは盲目だったため、弟のパーンドゥが王位に就きますが、パーンドゥが夭逝したため、ドリタラーシュトラが次の王になりました。

ドリタラーシュトラには100人の王子が、パーンドゥには5人の王子がいて、それぞれカウラヴァ、パーンダヴァと呼ばれていました。ドリタラーシュトラは、亡くなった弟の子である5王子を引き取り、自分の子である100王子と平等に育てました。5王子は100王子よりも優秀であったため、ドリタラーシュトラは5王子の長男であるユディシュティラを後継者に望みます。しかし、100王子の長男であるドゥリヨーダナはこれに反発し、5王子を国から追放してしまいました。

  • 5王子【パーンダヴァ】
    長男ユディシュティラ、三男アルジュナなど
  • 100王子【カウラヴァ】
    長男ドゥリヨーダナなど

盲目王ドリタラーシュトラは、国の半分を5王子に分け与えようとしましたが、またしても100王子がイカサマ賭博で妨害し、5王子に12年間の追放を命じました。

5王子は長きにわたる追放を終え、再び国に戻ってきましたが100王子の長男ドゥリヨーダナが約束に応じないため、大戦争が始まります。両陣営はそれぞれクリシュナ(=ヴィシュヌ神)に協力を仰ぎ、5王子はクリシュナ自身を求め、100王子はクリシュナの持つ軍隊を手に入れました。

クルクシェートラで行われた大戦争は18日間も続きました。結果は5王子側(パーンダヴァ)の勝利で終わりましたが、両軍とも全滅に近い状態だったと伝えられています。

5王子の長男ユディシュティラは戦いの禊ぎとして、ヒマラヤ山弟たちと妻と一緒に向かいます。険しい道のりで一行は次々と倒れ、最後にただ一人登頂したユディシュティラも弟たちと同じく天界へ旅立っていきました。

壁面の両端から2つの陣営がそれぞれ進み、中央では両軍の兵士たちが激しく交戦する姿が描かれています。左から進むのがカウラヴァ軍(100王子)、右から進むのがパーンダヴァ軍(5王子)です。

アンコール・ワット第一回廊(マハーバーラタ)
ビーシュマの死を嘆く5人の王子

アンコール・ワットの『マハーバーラタ』のレリーフでぜひ注目していただきたいのが、左端上部に描かれている「指揮官ビーシュマの死」の場面です。

ビーシュマは5王子と100王子の大伯父にあたる人物で優れた大戦士でした。しかし、クルクシェートラの戦いの10日目、無数に矢に射抜かれてビーシュマはその命を落としました。ビーシュマは息を引き取る直前にパーンダヴァ軍(5王子側)の勝利を予言しています。

ビーシュマはカウラヴァ軍(100王子側)に与していましたが、偉大なる一族の長老であったビーシュマの死に5王子も深く悲しみに沈みました。

アンコール・ワット第一回廊(マハーバーラタ)
カウラヴァ軍の楽隊

『マハーバーラタ』のレリーフは、左右からそれぞれの軍が進行し、中央で両軍が交戦する構図になっています。

少しずつ兵士たちの足並みが激しく乱れていく変化を、実際に壁に沿って歩きながらじっくり観察してみてくださいね。

アンコール・ワット第一回廊(マハーバーラタ)
パーンダヴァ軍の戦士
アンコール・ワット第一回廊(マハーバーラタ)
中央で両軍の兵士が死闘を繰り広げる
アンコール・ワット第一回廊(マハーバーラタ)
パーンダヴァ軍は壁面の右側から進行
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多くの兵士たちが足並みを揃えて進んでいますが、中には後ろや横を向いている兵士の姿も描かれています。こうしたちょっとした変化の部分に着目するのもおもしろいです

南西角ホール

第一回廊の四隅のうち、南西と北西の2箇所のホールには、多くの貴重なレリーフが残っています。

いずれも高い位置にあり、暗くて少し見えにくい部分なのですが、ぜひ少し立ち止まって観察してみてください!

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第一回廊の角のホールは、十時型のような形をしています。ここでは順番に8つのレリーフをご紹介!

アンコール・ワット第一回廊

まずは、「ゴーヴァルダナ山を持ち上げるクリシュナ」を探してみてください。

この場面は、『バーガヴァタ・プラーナ』と呼ばれる聖典の内容に基づいています。この聖典では、ヴィシュヌ神の第8の化身であるクリシュナの生涯が綴られています。

かつて村の牛飼いたちは、雷雨を司る神であるインドラを祀っていました。

しかし、クリシュナが牛飼いたちに、インドラ神よりもゴーヴァルダナ山を崇めるように勧めたため、牛飼いたちは山に供物を捧げて祈るようになりました。これに激怒したインドラ神は、村に大雨を降らせます。

するとクリシュナは、ゴーヴァルダナ山を引き抜き、小指で頭上に掲げて、まるで山を傘のようにして人々や牛の群れを大雨から守りました。

アンコール・ワット第一回廊

「乳海攪拌」はヒンドゥー教の創世神話であり、カンボジアの遺跡のあらゆる場面にこのモチーフが登場します。

特にアンコール・ワットの第一回廊東面に大きく描かれた「乳海攪拌」が有名ですが、実は南西角のホールにも小さく描かれています。欠けてしまっている部分が多く、少しわかりづらいのですが、神々と阿修羅たちが大蛇を引っ張りあっている様子は確認できます。

アンコール・ワット第一回廊

アンコール・ワットは主にヴィシュヌ神を祀った寺院だと言われていますが、ヒンドゥー教の他の神々もたくさん登場しています。

上の写真は、松の森の中にシヴァ神が現れた場面を描いたものです。森の中の苦行者たちの妻を誘惑し、苦行者たちの信仰心を試したと言われています。

アンコール・ワット第一回廊

「カイラシュ山を揺らす魔王ラーヴァナ」は、アンコール・ワットだけでなく、バンテアイ・スレイの破風にも描かれている有名な場面です。

激しく体を動かしている様子のラーヴァナの上では、シヴァ神が瞑想する姿が描かれています。

かつてラーヴァナは、天を翔ける戦車に乗ってカイラシュ山へ向かっていました。しかし、その地域への立ち入りは禁じられており、そのことに激怒したラーヴァナは、山を根こそぎにしようと試みます。

ところが、シヴァ神が爪先で山を元に戻してしまい、ラーヴァナは山の下に閉じ込められてしまいました。どんなに体を揺すっても、山から抜け出すことは叶いません。諦めたラーヴァナは、厳しい苦行を重ねて償いをし、最終的にはシヴァ神から恩赦が与えられました。

アンコール・ワット第一回廊

「シヴァ神に向けて愛の矢を放つカーマ神」の場面も、上記と同じくバンテアイ・スレイ遺跡の破風に描かれています。

カーマ神の知名度は日本ではそれほど高くありませんが、ローマ神話に登場するキューピッド(クピドー)と重なる部分があり、とても興味深い存在です。ここでは、一つの壁面で物語の一連の流れを描いています。

ある時、シヴァ神の最初の妻であるサティーは、シヴァ神を認めない実夫への抗議のために炎の中に身を投じて、命を落とします。シヴァ神は激しく怒り狂い、世界はすっかり荒廃してしまいました。その後、シヴァは深い悲しみを断ち切るために苦行に入ります。

その頃、神々の世界では悪魔が暴れており、神々はたいそう手を焼いていました。そうした中「シヴァの息子が悪魔を滅ぼす」という予言を受けた神々は、なんとかしてシヴァに新しい妻を迎えさせようとします。実はサティーは、パールヴァティーとしてすでに生まれ変わっていたのです。

そこで、シヴァ神を苦行から目覚めさせるために、カーマ神が選ばれました。カーマの矢は砂糖でできていて、射られた者は恋をすると言われています。

見事1本目の矢をシヴァ神に放ったカーマでしたが、シヴァの第3の目が放つ光によってその身を滅ぼされてしまいました。カーマの妻ラティは、夫の死を嘆き悲しみ、シヴァの妻となったパールヴァティに懇願します。その結果、カーマはシヴァ神に許され、復活することができました。

アンコール・ワット第一回廊

「ヴァーリンとスグリーヴァの戦い」は、叙事詩『ラーマーヤナ』の場面の一つです。直接的には話の大筋と関係のない部分ですが、カンボジアの遺跡の中では度々目にする絵図です。

上の写真の浮き彫りは、上段と下段で物語の2つの場面が描かれています。

上段は、スグリーヴァと取っ組み合いをしているヴァーリンをラーマ王子が射抜いた場面。下段は、ヴァーリンの死を嘆き悲しむ猿たちと、それを見ているラーマ王子一行を描いた場面です。

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兄猿ヴァーリンは、弟猿スグリーヴァから王位と妻を奪ったため、その報いを受けました。こうした場面を寺院の壁面に残したのは、「王位を簒奪するものを許さない」という当時の為政者たちの一種の意志表明だったのかもしれませんね

魔王ラーヴァナに拐われてしまったシータ姫を探すために、ラーマ王子とラクシュマナ(ラーマの異母弟)が森の中を彷徨っていると、スグリーヴァという猿に出会いました。

スグリーヴァは、ラーマ王子たちに自分の身の上を話して聞かせました。スグリーヴァは、かつてキシキンダー(猿族の都)の王でしたが、兄猿ヴァーリンに王位を奪われ、国を追放されてしまったことを語りました。王位だけでなく妻までも奪われたことを聞き、ラーマ王子は自身の境遇と重ね合わせ、スグリーヴァに同情します。

ラーマ王子とスグリーヴァは友情を結び、ラーマ王子はヴァーリンを倒すことを約束しました。一方でスグリーヴァは、ラーマ王子の約束が果たされた後、シータ姫の救出に力を貸すことを誓います。

彼らはキシキンダーに戻り、スグリーヴァはヴァーリンに勝負を挑みました。勝負はヴァーリンが優勢でしたが、物陰に潜んでいたラーマ王子が矢を放ち、ヴァーリンは命を落とします。その後、スグリーヴァは王国と妃を取り戻し、後継にはヴァーリンの子であるアンガダを据えました。

スグリーヴァはラーマとの約束を果たすため、各地の猿を召集し、シータ姫の捜索隊を世界中に派遣します。猿の将軍ハヌマーンの働きにより、シータ姫がランカ島に囚われていることが明らかになると、スグリーヴァたちはラーマ王子に従い、猿の軍隊を引き連れて戦いに臨みました。

アンコール・ワット第一回廊

上の写真の壁面は、多くの部分が欠損していますが、上部中央に座っているシヴァ神の姿はかろうじて確認ができます。

どうやら王族らしき人物が、シヴァ神に願い事をしている場面のようです。その下では何人かの修行者たちが瞑想している様子も描かれています。

アンコール・ワット第一回廊

上の写真の壁面は、水祭りの様子を描いた場面です。ドヴァラヴァティ(別名ドワールカー)は、クリシュナが治める都市の名前であり、ヒンドゥー教七大聖都の一つになっています。

諸説ありますが、上部中央でチェスのような遊びをしている2人の人物は、クリシュナとバララーマ(クリシュナの兄)の可能性が高いです。右下では闘鶏をして盛り上がっている人々の姿が描かれています。

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雨季が明けたことを祝う「水祭り」はカンボジアで今でも続いているイベントです。例年シェムリアップもたくさんの人で賑わいますよ!

南面西側|スールヤヴァルマン2世の行軍

南西南側の壁面には、アンコール・ワットを建立した王であるスールヤヴァルマン2世が行軍する様子が描かれています。

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画面は左から右に進行していくので、ぜひ鑑賞のときも反時計回りに進んでいきましょう

冒頭の部分では、当時の宮廷内の様子が描かれていて、下段には行進する兵士たちや女官たちが登場します。華やかで明るい雰囲気が伝わってきますね。

アンコール・ワット第一回廊
兵士にエスコートされる女官
アンコール・ワット第一回廊
女官と子ども(小人?)らしき人物
アンコール・ワット第一回廊(スールヤヴァルマン2世)
玉座に座るスールヤヴァルマン2世の実像

まずチェックしていただきたいのが、玉座に大きく描かれたスールヤヴァルマン2世の姿です。多くの天蓋が差し掛けられ、三角の帽子を被っている人物が王であり、目の前の人物に何かの指示をしているような姿が窺えます。

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壁面にはうっすらと当時の赤い彩色が残っています。真偽の程は定かではありませんが、かつて王の像は金箔で覆われていたのではないかとも伝えられています

一説には、スールヤヴァルマン2世が出陣前の占いをしている場面とも言われています。

昔からカンボジアでは占いにより吉凶を判断していました。今でも結婚など人生の重要な場面では占いの結果が重要視されることがあります。

アンコール・ワット第一回廊

壁面をもう少し先に進むと、軍隊の大行進が現れます。

象に乗った19人の将軍たちと多くの歩兵が行幸に加わっており、ちょうどその中央には戦象に乗ったスールヤヴァルマン2世の姿も描かれています。

アンコール・ワット第一回廊(スールヤヴァルマン2世)

王の姿は、ほかの将軍たちよりも大きく描かれていて、天蓋がもっとも多く差し掛けられているので見つけるのは簡単です。

三角の尖った帽子は神の象徴であり、神と一体化した王の姿も同じように描かれています。

アンコール・ワット第一回廊

列の先頭(壁面の右端)に他の兵士たちとは異なる風貌の集団が描かれている点にも着目してください。彼らはシャム人傭兵のシャム・クック軍です。

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一説によると、スールヤヴァルマン2世が率いるこれらの行軍は、次の場面(南面東側)の天国へ向かっているのではないか、とも言われています

南面東側|天国と地獄

南面の東側に描かれているのは「天国と地獄」です。

仏教と同じく、冥界の王ヤマ(=閻魔大王)が死後の人々を裁き、その判決により天国行きか地獄行きのどちらかに決まると考えられていました。この辺りは、日本の伝統的な死生観にも通じるところがありますね。

アンコール・ワット第一回廊(天国と地獄)
小さく碑文が刻まれている

壁面の冒頭1/3ほどの部分は、三段に分かれていて、上から順に「極楽界」、「裁きを待つ者たちの世界」、そして「地獄」が描かれています。人々は順に右側へと進行していき、閻魔大王(冥界の王ヤマ)のもとへ向かいます。

アンコール・ワット第一回廊(天国と地獄)
ライオンや蛇に噛まれる人々

地獄では、首に縄を繋がれた人々が獄吏たちに連行されていく姿が描かれています。

アンコール・ワット第一回廊(天国と地獄)
御輿によって運ばれていく身分の高い人
アンコール・ワット第一回廊(天国と地獄)
身分の高い人を出迎えている様子
アンコール・ワット第一回廊(天国と地獄)

冥界の王ヤマは、水牛の上に乗った姿で描かれています。18本の腕を持ち、死後の人々に裁きを下す存在です。

ヤマはもともとインド神話に登場する神でしたが、仏教に取り入れられた際に「閻魔えんま」と呼ばれるようになりました。「閻魔大王」は、日本でもよく知られる存在ですね。

アンコール・ワット第一回廊(天国と地獄)
地獄に落とされる人々

ヤマの右側には2人の補佐官がいて、罪人に罪を言い渡しています。何人かの人々は鬼たちによって地獄へと投げ入れられています。画面の下段ではここからずっと地獄の描写が続きます

アンコール・ワット第一回廊(天国と地獄)
天国を支えるガルーダのレリーフも美しい

地獄とは対照的に、画面の上段には天国の様子が描かれています。壁面の右側(東寄りの部分)は破損してしまっている箇所が多いのですが、途中でスールヤヴァルマン2世と思われる姿を発見できます。

スールヤヴァルマン2世は、「パラマヴィシュヌロカ」という諡号しごう(死後の名前)を授かりました。この諡号は「ヴィシュヌ神の崇高なる地へ向かった王」という意味で、王の存在が神と一体化したことを意味しています。

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南面西側の「スールヤヴァルマン2世の行軍」で登場する将軍たちの数は18名で、王を加えると計19名。そして南面東側の「天国」に描かれる王子のような人物の数も同じく19名です。

もしかすると、王と将軍たちが天国に向かったことを暗に示しているのかもしれませんね。

アンコール・ワット第一回廊(天国と地獄)
火炙りに処される人

地獄の描写は実に細かく、32の地獄が描かれています。生前の行いにより、どのような責め苦が与えられるのか決められたそうです。

アンコール・ワット第一回廊(天国と地獄)
舌を抜かれる人
アンコール・ワット第一回廊(天国と地獄)
全身に釘を打たれる人々

東面南側|乳海攪拌

乳海攪拌にゅうかいかくはん」とは、ヒンドゥー教における天地創世神話です。

カンボジアの遺跡でもよく用いられるモチーフですが、アンコール・ワットの第一回廊には約50mにわたって描かれており、その完成度と迫力はまさに別格と言えます。

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写真では伝えきれないほどの圧倒的なスケール! ぜひご自身の目で細部までじっくり堪能してくださいね

アンコール・ワット第一回廊(乳海攪拌)

乳海攪拌はもともとインド発祥の説話ですが、カンボジアの遺跡に描かれている乳海攪拌は完全に原典と一致しているわけではなく、「カンボジア版」としてアレンジされている部分もあります。たとえば、図柄の中にはインド版に登場しない架空の動物の姿が描かれています。

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乳海攪拌が描かれている遺跡はたくさんあります!

小さなものも含めると、さらに色々な遺跡で登場します

太古の昔、神々と阿修羅あしゅら族は不老不死の妙薬「アムリタ」を巡って壮絶な争いを繰り広げていました。しかし、双方ともに戦いに疲弊してしまい、ヴィシュヌ神に助けを求めます。するとヴィシュヌ神は「互いに協力して海をかき混ぜれば、アムリタを得ることができる」と告げました。

神々と阿修羅はヴィシュヌ神に従い、協力することを決めました。軸棒であるマンダラ山にヴァースキ(大蛇)を巻きつけ、クールマ(亀)で軸棒の底を支えて、頭と尾の両端を綱引きのように引っ張ります。神々は尾の方を、阿修羅族は頭の方を持つことになりました。ヴァースキは口から猛毒を吐き出すため、アシュラ族は苦しみましたが、シヴァ神が猛毒を飲み込んでくれました。

攪拌を続けること1000年、しだいに海からさまざまなものが誕生し始めます。良質なバターであるギー、ヴィシュヌ神の妻となるラクシュミー、アプサラ(水の精)、ソーマ(酒)、太陽、月などが生まれ、最終的にはアムリタを持ったダンヴァンタリ神も現れました。

阿修羅族は何とかしてアムリタを奪おうとしましたが、ラクシュミーに化けたヴィシュヌ神に騙され、アムリタを奪われてしまいます。結局、神々だけでアムリタを飲んでしまい、阿修羅族は不老不死を得ることはできませんでした。

アンコール・ワット第一回廊(乳海攪拌)

壁面の左端に描かれているのは、阿修羅族の軍隊で、大蛇ヴァースキの頭を軍の長であるラーヴァナが持っています

アンコール・ワット第一回廊(乳海攪拌)

ちょうど壁面の中央で采配を振るっているのがヴィシュヌ神です。ヴィシュヌ神は4本の腕を持ち、それぞれに棍棒、ほら貝、蓮華、チャクラ(円盤状の武器)を手にしています。

ヴィシュヌ神の背後にあるのがマンダラ山で、その下では亀の王クールマがマンダラ山を支えています。

ヴィシュヌ神の上に描かれている神の名は不詳ですが、インドラ神ではないかと推測する説もあります。上段でたくさん舞っているのは、アプサラス(アプサラ)と呼ばれる水の精です。

アンコール・ワット第一回廊(乳海攪拌)

ぜひ海の中の様子にも着目してみてください。

魚やワニ、蛇など実に様々な生き物の姿が描かれています。水の流れが特に激しい中央付近では、生き物の体が千切れ千切れになっています。

アンコール・ワット第一回廊(乳海攪拌)

画面の右側で引っ張っているのは神々であり、その最後尾にはハヌマーンが登場します。実に勇ましく力強い姿が印象的です。*猿の将軍ハヌマーンではなく、猿王スグリーヴァだとする説もあります。

神と一体化した王の姿

第一回廊を鑑賞する際、ぜひ壁面に描かれた王の姿とヴィシュヌ神の尊顔を見比べてみてください。どことなく両者の姿が似通っていることに気づきます。

当時のカンボジアでは「デヴァラージャ(神なる王)」という信仰が根付いており、王は神と一体化した存在であると考えられていました。そのため、アンコール・ワットにおいても、王とヴィシュヌ神は同一の存在として描かれています。

ヴィシュヌ神とスールヤヴァルマン2世

アンコール王朝の歴史を
さらに知りたい方へ

東面北側|ヴィシュヌ神と阿修羅の戦い

ここから先、東面北側と北面の部分の装飾は、スールヤヴァルマン2世の時代には完成しませんでした。スールヤヴァルマン2世は1150年頃に逝去したと言われています。

しばらくして、14世紀後半から勃興したアユタヤ王朝(現在のタイ)との戦いによって王国は疲弊し、1431年にはアンコール・トムが陥落。その後、カンボジアの人々はアンコールの地を放棄せざるをえない状況が続きました。

16世紀半ば頃、アンコール王朝の末裔アン・チャン1世が旧都アンコールに戻り、追加工事を行いました。これらの壁面の装飾はその際に施されたものです。中国の職人たちによって彫られたと言われています。

アンコール・ワット第一回廊
ガルーダに乗ったヴィシュヌ神

残念ながら、これらの壁面の絵図は当時の作風とは大きく異なっており、彫りが浅く、美術的な評価もあまり高くありません。当時のシャム(タイ)の美術様式の影響を受けている部分も強いです。

CN編集部

あらためて12世紀と16世紀のレリーフを比較して見ると、いかに当時のクメール帝国の職人たちの技術と美術的センスが高かったのかが分かりますね

アンコール・ワット第一回廊

北面東側|クリシュナと阿修羅バーナの戦い

北面東側の壁面も、上記と同様に16世紀頃に追加工事が行われた箇所です。

ここでは、クリシュナとバーナの戦いの場面を描いています。

アンコール・ワット第一回廊
ガルーダの上に乗るクリシュナ

ガルーダは、ヴィシュヌ神のヴァーハナ(乗り物)です。クリシュナは、ヴィシュヌ神の化身であるので、同じようにガルーダの上に乗る姿で描かれています。

ガルーダの両腕の上に乗っているのは、バララーマ(クリシュナの兄)とプラデュムナ(クリシュナの子)です。

アンコール・ワット第一回廊

クリシュナ一行は、バーナに捉えられたアニルッダ(クリシュナの孫)を救うためにバーナの都ショーニタプラを包囲しました。壁面には炎の壁を消そうとするガルーダの姿も描かれています。

アンコール・ワット第一回廊

ひじょうに興味深いのは、壁面の右端に描かれている部分です。上の写真の左上部にいるのはクリシュナで、その左側にはガネーシャ、そしてさらに右側にはシヴァ神が描かれています。

ガネーシャは象の頭を持つ学問や商業の神であり、ヒンドゥー教の中でも人気のある神様ですが、実はカンボジアの遺跡にはほぼ登場しません。このようにレリーフの中に登場するのはとても珍しいです。

また、シヴァ神の姿がまるで中国の神のような姿で描かれている点も特徴的です。製作者たちの宗教観が大きく影響したのかもしれませんね。

北面西側|アムリタをめぐる神々と阿修羅の戦い

北面西側も阿修羅たちとの戦いの場面が続きます。

この壁面は、「乳海攪拌」で出現した不死の妙薬アムリタをめぐって神々と阿修羅が戦っている場面で、ヒンドゥー教のさまざまな神々が登場します。

CN編集部

戦いのシーンとしては同じような場面が繰り返し続きますが、時折登場するさまざまな神々を探すのはとても面白いです! ぜひ下記の写真を参考にしながら見つけてみてくださいね

いろいろな神々の見つけ方

ヒンドゥー教には様々な神々が登場しますが、実はどの神様なのか識別するヒントがあります。それぞれの神様には「乗り物/ヴァーハナ」が決まっているので、セットで描かれた動物や乗り物に着目してみましょう。

  • クベーラ〔財宝の神〕:ヤクシャ(夜叉/鬼神)
  • アグニ〔火神〕:サイ
  • スカンダ〔軍神〕:孔雀
  • インドラ〔雷霆神〕:アイラーヴァタ(白い象)
  • ヴィシュヌ〔維持の神〕:ガルーダ
  • ヤマ〔冥界の神〕:水牛
  • シヴァ〔破壊の神〕:ナンディン(牡牛)
  • ブラフマー〔創造の神〕:ハンサ(白いガチョウ)
  • スーリヤ〔太陽神〕:馬が引く戦車
  • ヴァルナ〔水の神〕:ナーガ *マカラに乗っていることもある

*北面西側に登場する順番で記載しています(左から右)

アンコール・ワット第一回廊
ヤクシャの上に乗るクベーラ

クベーラは富と財宝の神です。仏教においては毘沙門天と呼ばれる存在で、軍神として祀られています。戦国武将の上杉謙信が毘沙門天を強く信仰していたという話が有名です。

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サイが引く戦車に乗ったアグニ

アグニは古くから信仰されてきた火の神です。叙事詩『マハーバーラタ』では、供物の食べ過ぎでお腹を壊し、それを治すためにカーンダヴァの森を焼き払ったというエピソードが残っています。

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孔雀の上に乗るスカンダ

スカンダは、シヴァ神とパールヴァティーの間に生まれた軍神で、ガネーシャとは兄弟にあたります。仏教においては韋駄天と呼ばれる神で、父であるシヴァ神の軍の将を務めています。

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白い象の上に乗るインドラ

インドラは、雷を司る神であり、神々の代表者として語られることもある存在です。仏教においては帝釈天と呼ばれ、東方を守護する神としても祀られています。

CN編集部

アイラーヴァタと呼ばれる象の上に乗っているのは、インドラ神です。インドラ神は他の遺跡でもよく登場するので、ぜひ象を目印に探してみてくださいね!

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ナーガの上に乗る阿修羅
アンコール・ワット第一回廊
ガルーダの上に乗るヴィシュヌ

ヴィシュヌは、三神一体の最高神であり、創造された世界を維持する力を持つ神です。アンコール・ワットはヴィシュヌ神を祀った寺院であったと言われています。

アンコール・ワット第一回廊
カラネミと呼ばれる阿修羅族
アンコール・ワット第一回廊
水牛が引く戦車に乗ったヤマ

ヤマは死者を統べる冥界の王であり、死後の人間を裁く役割を担っています。仏教においては閻魔と呼ばれる存在です。第一回廊南面の「天国と地獄」にも登場します。

アンコール・ワット第一回廊
ナンディンが引く戦車に乗ったシヴァ

シヴァは三神一体のひとりであり、破壊を司る神です。同時に恩恵の神でもあり、豊穣を司っていることから、民衆の人気を多く集めていました。愛妻家としてのエピソードも有名です。

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ハンサの上に乗ったブラフマー

ブラフマーは、シヴァやヴィシュヌと並ぶ三大神のひとりで、世界をつくった神々の祖として祀られています。

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馬車の上に乗ったスーリヤ(背面に円盤)

スーリヤは、太陽を神格化した神で、7頭の栗毛の馬に引かれた車に乗って天空を左から西へ駆けると言われています。

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ナーガに乗ったヴァルナ

ヴァルナは、もともとは雷帝神インドラと同格の法を司る神でしたが、時代の流れとともに、水の神として祀られるようになりました。そのため、亀やマカラに乗る姿で描かれることも多いです。

北西角ホール

南西角のホールと同様に、北西角のホールにも多くの貴重なレリーフが残っています。

『ラーマーヤナ』の場面やクリシュナにまつわるヒンドゥー教の説話などが描かれています。

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上の写真は、クリシュナがナラカスラ(阿修羅)から取り戻したマニパールヴァタ山をインドラ神のもとに返す場面です。

マニパールヴァタ山にはナラカスラが奪った宝物や女性たちが囚われていました。クリシュナは見事女性たちを救い出し、奪われた宝物をインドラ神に返しました。このときクリシュナは救い出した16,000人の女性たちを自分の妻として迎え入れたと言われています。

CN編集部

クリシュナにはもともと108人の妻がいました。

さらにマニパールヴァタ山で迎え入れた女性を加えると、合計16,108人の妻がいたことになります! クリシュナは分身をして、それぞれの妻と毎日過ごしていたそうです。*原典によって数が異なる場合があります

アンコール・ワット第一回廊

上の写真の壁面には、ヒンドゥー教の神々がヴィシュヌ神に地上へ降臨するよう願っている場面が描かれています。

残念ながらヴィシュヌ神の部分は欠けてしまっていますが、神々が並ぶ姿は保存状態が良く、とても貴重な構図です。北面西側の浮き彫りと同様、ヴァーハナ(神々の乗り物)によって、どの神であるかを判別することができます。

アンコール・ワット第一回廊

また、太陽の神スーリヤと月の神チャンドラが縦に並んで描かれているレリーフにもぜひ着目してください。戦車を率いる馬が正面を向いた状態で描かれるのは珍しいです。*スーリヤ神とチャンドラ神は上下逆の可能性もあります

アンコール・ワット第一回廊

上の写真は、アクルラがクリシュナにまるわる予見をする場面ではないかと推測されます。

上部中央にいる2人の人物がクリシュナとアクルラです。その下で横たわっているようなポーズをしているのは、泳いでいる状態を描いたものと思われます。

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上の写真は、『ラーマーヤナ』の有名な場面の一つです。ラーマ王子たちが見事ラーヴァナを討ち、シータ姫と再会したあとの出来事を描いています。

残念ながら、肝心のシータ姫の部分は破損してしまっていますが、燃え盛る炎の一部は今でも確認することができます。同じ絵図は、ベンメリア遺跡の破風にも描かれています。

ラーマ王子は、ようやくシータ姫との再会を果たしたものの、長い間ラーヴァナに囚われていたシータ姫の貞操を疑っていました。そのため、シータ姫は自らの潔白を証明するために炎の中にその身を投じます

事実、シータ姫はランカ島に囚われていた間、「ラーマ以上の男はいない」と断言し、ラーヴァナを強く拒絶していました。幾度となくラーヴァナや手下たちに脅されましたが、決して屈することなく貞節を守り抜いたと語られています。

そのため、シータ姫が炎に身を投じた際、その身に傷一つつくことはありませんでした。シータ姫の決死の覚悟に心を動かされた火の神アグニが加護を与えたからだとも言われています。

*版や地域によって内容が多少異なる場合もあります

アンコール・ワット第一回廊
よく見ると猿の指の数が6本になっている

すぐ近くでは、炎の中のシータ姫を見守るように、たくさんの猿たちが見上げています。下段には指が6本ある猿がいるので、ぜひ探してみてください(当時の職人がうっかり指の数を間違えてしまったのかもしれませんね)

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上の写真は、ラーマ王子たちが魔王ラーヴァナを倒した後、プシュパカに乗ってランカ島から国へ戻る場面です。プシュパカとは、空飛ぶ宮殿または戦車を意味します。

もともとは財宝の神クベーラがブラフマー神から授けられたものでしたが、クベーラの異母兄弟であるラーヴァナがそれを奪い我が物として使っていました。

『ラーマーヤナ』と『天空の城ラピュタ』の共通点?

インドの古代叙事詩である『ラーマーヤナ』と、宮崎駿監督作品『天空の城ラピュタ』にはいくつかの繋がりがあります。偶然の一致なのか、意図的なものなのか定かでない部分もありますが、ひじょうに興味深いですね!

  • ヒロインの名前がどちらも「シータ」であること
  • プシュパカとラピュタ、どちらも空飛ぶ宮殿(城)が登場すること
  • 拐われたヒロインを助け出しにいく、というストーリー構成
  • 『天空の城ラピュタ』でムスカ大佐が「ラーマヤーナではインドラの矢とも伝えているがね」という発言をしていること
アンコール・ワット第一回廊

上の写真も『ラーマーヤナ』の物語の有名な場面です。

猿の将軍ハヌマーンは、行方不明のシータ姫を探すために一人でランカ島に潜入していました。苦労の末ハヌマーンはようやくシータ姫を見つけ出し、自身がラーマの味方であることを証明するためにラーマの身につけていた指輪をシータ姫に差し出しました

ここでもシータ姫の姿は一部が欠けてしまっていますが、その左側にいるハヌマーンの姿は確認することができますね。

CN編集部

ハヌマーンは『ラーマーヤナ』の物語の中で重要な役割を果たす登場人物です。シータ姫の居場所を見つけ出したり、ラーマの異母弟ラクシュマナの危機を救ったりしました!

アンコール・ワット第一回廊

上の写真は、クリシュナとゴピたちを描いた場面だと言われています。

ゴピとは牛飼いの女性たちを指す言葉で、そのうちの一人ラーダはクリシュナが最も好意を寄せていた人物で、クリシュナの妻の一人となります。

ほかにも主要なゴピたちは108人いて、彼女たちもクリシュナの妻となりました。クリシュナは妻の数が多かったことでも有名です(後にマニパールヴァタ山で16,000人の妻をさらに迎えることになります)

ヤーダヴァ族の悪王カンサは、自身の妹(or姪)であるデーヴァキーの8番目の子どもによって殺されるという予言を受けました。そこでカンサはデーヴァキーとその夫を監禁し、生まれてくる子どもを次々と葬りました。

ついに8番目の子どもが生まれるとき、ヴィシュヌ神が夫妻の前に姿を現し、カンサに気づかれぬように赤子をすり替えるよう命じます。クリシュナと名付けられた赤子は、牛飼いに預けられ、ゴークラの街に逃れました。

クリシュナは牛飼いの村ですくすくと育っていきました。幼い頃から人間離れした力を発揮し、多くの牧女たち(ゴピ)を虜にする魅力的な存在となりました。

一方カンサクリシュナが生きていることを知り、刺客を送り込みますが次々とクリシュナに返り討ちにされたため、最終的に都の格闘技大会におびき出すことにしました。しかしクリシュナは次々と難局を打破し、ついにはカンサを大衆の前で打ち倒しました

アンコール・ワット第一回廊

上の写真は、『ラーマーヤナ』の「シータ姫の婿選び」の場面を描いたものです。

シータ姫の父であるジャナカ王は、自身の持つ「シヴァの強弓」を引くことができた者を姫の夫とすると宣言しました。絶世の美女として有名だったシータ姫のもとには多くの求婚者が集まりましたが、あまりに弓が重くて誰も引くことができません。

そうした中、唯一ラーマ王子だけが見事シヴァの強弓を引いてみせ、シータを妻として迎えることになりました。

おすすめの観光方法は?

今回ご紹介したのはアンコール・ワットの第一回廊!

アンコール・ワットには当然ながらまだまだたくさんの見所があります。敷地自体も広いので、効率よく観光するにはちょっとしたコツも必要です。

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CN編集部

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アンコール・ワット第一回廊|まとめ

今回はアンコール・ワットの第一回廊について詳しくご紹介しました!

もちろん単純に一つの作品として鑑賞するだけでも価値がありますが、それぞれのレリーフにこめられた意味や物語を知っていると、遺跡観光がさらに楽しくなります!

ヒンドゥー教や古代インドの逸話は、登場する神々などが多くて混沌としている部分もありますが、そうした複雑さも含めてぜひ楽しんでみてください。かつてのアンコール王朝の宗教・信仰について知識が増えると、遺跡鑑賞の解像度も一気に高まります。

CN編集部

アンコール・ワットは本当に見所が多くて、何度行っても飽きることはありません! 特に第一回廊は興味深いポイントばかりなので、ぜひ皆さんもじっくり鑑賞を楽しんでくださいね

アンコール・ワット