タ・ケウ遺跡は「クリスタルの古老」という意味を持つ寺院です。10世紀後半から11世紀前半にかけてジャヤヴァルマン5世によって造営が開始されました。
実はこのタ・ケウ遺跡は、アンコール・ワット建立に向けた「リハーサル」的要素を含んでいます。寺院自体は、王の急逝により建設が中断されてしまいましたが、もし完成していたらアンコール・ワットに次ぐ象徴的寺院になっていたかもしれません!
タ・ケウってどんな遺跡?
タ・ケウは、ジャヤヴァルマン5世が10世紀後半から11世紀にかけて造営に着手した寺院です。
ジャヤヴァルマン5世は、若かりし頃に父王であるラージェンドラヴァルマン2世から王位を継ぎました。しかし、すぐに即位が認められた訳ではなく、王位継承戦が勃発したと言われています。
当時のアンコール王朝では、世襲制は一般的ではなく、基本的に実力で即位の正当性を示す必要がありました!
父王の時代で使っていた旧王宮は王位継承戦で消失してしまったため、新たな都城と王宮を建設する必要がありました。そこで新たに造営されたのがタ・ケウ寺院(ジャイエンドラナギリー)でした。
ここで「ヤジュニヴァラーハ」と呼ばれた一人の人物に着目してみましょう! 彼は、ラージェンドラヴァルマン2世とジャヤヴァルマン5世の両王に使えた王師(王の相談役や補佐官)でした。
とても優れた美術センスと豊富な知識を持っていた人物で、アンコール芸術の中でも特に評価が高い「バンテアイ・スレイ遺跡」の造営に深く携わっています。
もしかすると、タ・ケウ建設計画にも王師ヤジュニヴァラーハが一部で関わっていたのかもしれません。ただし実際にタ・ケウ造営が始まった頃にはすでに亡くなっていた記録があるので、具体的な建築には関わっていないと思われます。
そう考えると、タ・ケウの建築はジャヤヴァルマン5世が自らの技量とセンスを示すための「挑戦」の一つだったのではないでしょうか?
残念ながら、寺院は未完成のままになってしまいましたが、新しいことに果敢に挑戦しようとする心意気が遺跡全体から伝わってきますね!
「古老のクリスタル」と呼ばれる遺跡
タ・ケウは、数あるアンコール遺跡の中でも独特な雰囲気を放っています。優美で華やかな印象の寺院が多いのに対し、タ・ケウの外観はまるで要塞のようです。
タ・ケウとは「クリスタルの古老」を意味しています。結晶のように積み上げられた石材や堅牢な造りから名付けられたのかもしれません。
ゴツゴツと角ばった外観をしていますね! 他の遺跡では感じられない威厳や風格が漂っています。
遺跡建築の貴重な手掛かり
タ・ケウ寺院は、ジャヤヴァルマン5世の急逝で建築が中断してしまい、ずっと未完成の状態です。
次に即位したウダヤディティーヤヴァルマン1世は、タ・ケウ建築を続行するか否かの占い儀式を行い、最終的には中断を決意しました。実はタ・ケウ建築中に中央祠堂に落雷があり、それが「神の怒り」であると判断されたためです。
未完成の状態で放置されたタ・ケウ遺跡は、アンコールの遺跡研究において、とても貴重な存在です。当時の工法や構造を探る重要な手掛かりになっています。まさに石像建築情報の宝庫!
タ・ケウ寺院では、他の遺跡で一般的な壁面彫刻がほとんど施されていません。ひと通りの石積みを終えてから、彫る作業を始める予定だったことがうかがえます。
タ・ケウ建築で用いられているのは、硬度の高い「緑色砂岩」です。もしかすると、もともと彫刻を施さない計画だったのかもしれませんね。
当時の王様ってどんな人?
タ・ケウ遺跡までの行き方
タ・ケウ遺跡は「小回りコース」と呼ばれる観光ルートの中に含まれる遺跡です。アンコール・トムとタ・プローム遺跡の間にあり、途中で立ち寄りやすい場所にあります。バイヨン寺院からは車/トゥクトゥクで5分ほどです。
この近くには小さな遺跡も点在しているので、スケジュールに余裕のある方はセットで巡ってみるのも良いかもしれません。
単体で訪れることは珍しく、「小回りコース」の一部として見学することが多いです。現地ツアーの利用がおすすめ!
小回りコースをセット観光!
急な階段に要注意!
タ・ケウ遺跡を訪れる場合には、特に足元に注意が必要です!
頂上の中央祠堂に向かう階段はかなり急で、段差も高めになっています。登り降りの際は手も使いながら、ゆっくり移動してください。
階段下から見上げるとほぼ垂直に感じられるほど、急な勾配になっています。その分、頂上から見渡す景色は抜群です!
現在利用できる階段は、東側のみです。それ以外の階段はとても危険なため、立ち入らないようにしてください。他の遺跡でも同様ですが、安全のために「歩きやすい靴&動きやすい服装」で観光しましょう!
「ちょっと自分には無理かも・・・」と思ったら、無理して登らないのもひとつの選択です!安全第一で観光を楽しみましょう!
タ・ケウ遺跡の見どころ
タ・ケウ遺跡の観光ポイントは、何といってもその迫力!
遠近感を活用した建築手法が存分に活かされおり、訪れる人々にインパクトを与えています。敷地は東西120m、南北100m。基壇は上に行くほど次第に幅が狭くなるように設計されている点が特徴です。「神の山」にふさわしい風格を備えています。
クメール山岳寺院の一つの「完成版」とも言える寺院です! アンコールの宇宙観を表現する要素が詰まっています
タ・ケウ寺院は未完のまま放置されてしまいましたが、もしも完成していたらアンコール遺跡の中でも特に優れた山岳寺院(ピラミッド型寺院)の一つになっていたはずです。
まるで要塞のような外壁
他のアンコール遺跡と雰囲気を異にするのが、その無骨な外観です。隙間なくきっちりと石が積まれた第一回廊には独特の魅力がありますね。
基部にはラテライト、遺跡の大部分には緑色砂岩が用いられています。これだけ大量の石を隙間なく並べる当時の技術力の高さには驚きです!
アンコール建築で初の「回廊」
タ・ケウ寺院の建設で初めて「回廊 (Gallery) 」が寺院装飾の一部として採用されました。回廊とは、中央祠堂を囲むように造られた廊下のことです。
特徴的なのは、回廊の外部には「偽窓」が設置されているのに対し、内側には本物の窓が設けられている点です。これには採光や換気などの目的があったと考えられています。
回廊の内側と外側で、見る人の印象が大きく変わるのがおもしろいですね!
未完成のままの彫刻
タ・ケウには作業途中のまま放置されている浮き彫りがたくさん残っています。
本来、遺跡の破風やリンテルの部分には、装飾が隙間なく施されることが多いのですが、タ・ケオ遺跡では空白のままの部分も珍しくありません。
下記の写真では、一部に「カーラ」や「ナーガ」「マカラ」が残っています。本来どんなデザインが予定されていたのか気になりますね!
頂上の5基の祠堂
タ・ケウ遺跡は5層のピラミッド式に構成されており、その最上部には5つの祠堂が設置されています。ひと回り大きな中央祠堂と、それを囲むように四方に配置された副祠堂です。
この5つの祠堂の配置は、アンコール・ワットと共通していますね!
タ・ケウの祠堂では、十字型のレイアウトが採用された点も着目ポイントです。それ以前は、入り口が1つしかないタイプの祠堂が一般的でした。
時代が進むにつれて、遺跡の設計図も少しずつ変化していくのが感じられて興味深いですね
タ・ケウ遺跡のポイントまとめ
小回りコースの1つの見どころである「タ・ケウ遺跡」をご紹介しました!
ほかのアンコール遺跡とは雰囲気がだいぶ異なるので、比較しながら見学してみると楽しめると思います。華やかな装飾はありませんが、荘厳で猛々しい外観がタ・ケウ遺跡の魅力です!
最上部からの眺めも素晴らしいので、ぜひ天気の良い日に訪れてみてくださいね。ただし、階段はかなり急なので、安全には十分な注意が必要です。
タ・ケウ遺跡のいくつかの特徴はアンコール・ワットにも引き継がれています。共通点を探しながら見学してみるのもオススメですよ!
見た目のインパクト通り、頂上まではかなり険しい道のりになっています。高所恐怖症の人は要注意です!