カンボジアの遺跡のあらゆる場面に登場する神々などについて紹介していきます。
ヒンドゥー教は、日本ではあまり馴染みのない宗教ですが、アンコール王朝では重要な役割を担ってきました。
ヒンドゥー教ってどんな宗教?
広義では、インドに発生したすべての宗教を指します。世界的な宗教であるキリスト教やイスラム教、仏教とは異なり、始祖と経典を持っていません。
古代インドのバラモン教と土着の民族信仰などが融合して、徐々に形成されてきた多神教です。4世紀ごろから形成が始まったと言われています。ヒンドゥー教徒の数は、インド国内で約10億人で、世界で3番目に人口の多い宗教です。
ただし、カンボジアにおけるヒンドゥー教は、歴史の変遷の中で少しずつ変化していき、カンボジア版ヒンドゥー教とも言える部分も多々あります。
カンボジアの歴史についてはこちら!
ヒンドゥー教の神々
カンボジアの遺跡には、さまざまな神々が登場します。
まずはヒンドゥー教における三大神とその化身を知っておくと遺跡見学がさらに楽しめるはずです。
ヒンドゥー教の三大神
シヴァ《破壊神》
ヒンドゥー教の三大神の一人で「破壊」を司る神です。アンコール遺跡群の中でもシヴァ神に捧げられた遺跡は多く、恵みや豊穣、健康のシンボルとして「リンガ」が寺院にはよく祀られています。
ヴィシュヌ《保護神》
ヒンドゥー教の三大神の一人で「保護」を司る神です。アンコール・ワットで祀られています。ヴィシュヌはいくつもの化身(アヴァター)の姿を持ち、物語のさまざまな場面で登場していきます。
ブラフマー《創造神》
ヒンドゥー教の三大神の一人で「維持」を司る神です。しかし、3柱神の中では信仰の人気が低く、遺跡にもほとんど登場しません。4つの顔を持ち、それぞれの顔は四方を向いていると言われています。
その他の神々や神獣
ラクシュミー
ヴィシュヌの神妃で、吉祥天と漢訳されます。乳海攪拌で不死の妙薬を得ようとした際に、海から出現したと言われています。
パールヴァティー
シヴァの神妃で、「山の娘」という意味の名を持ちます。シヴァの最初の妻であるサティーの生まれ変わりであり、学問の神ガネーシャや軍神スカンダの母です。金色の肌を持つ、心優しい女神と言われています。
ウマ
同じくシヴァの神妃であり、パールヴァティーの持つ別の顔の一つとされています。ウマは慈悲深い母と、従順な妻の象徴であり、遺跡ではシヴァとともにナンディン(牡牛)に乗る姿でよく描かれています。
サラスヴァティ
ブラフマーの体から生まれた芸術と学問を司る女神であり、ブラフマーの神妃でもあります。日本では「弁財天」として親しまれる存在です。豊穣をもたらす女神としての側面もあります。
ハリハラ
ハリハラはヴィシュヌとシヴァの合体神です。右がシヴァで、左がヴィシュヌであり、創造と破壊の両方を象徴しています。美女に変身したヴィシュヌとシヴァが一夜を共にしたことで生まれたと言われています。
スーリヤ
ヒンドゥー教における太陽の神です。戦いの神インドラの兄弟とされています。7頭の馬が引く戦車に乗っている姿で描かれることが多いです。
チャンドラ
ヒンドゥー教における月の神です。あまり遺跡に登場することはありませんが、アンコール・ワットの第一回廊北西角にスーリヤと対になる形でその姿が描かれています。
インドラ
ヒンドゥー教の雷霆神で、暴風雨をつかさどる戦いの神と言われています。アンコール・ワットの第一回廊の叙事詩「ラーマーヤナ」のレリーフにも、象の上で闘う姿が描かれています。
アグニ
ヒンドゥー教における火の神で、暗黒と邪悪を滅ぼすと言われています。叙事詩「ラーマーヤナ」にも登場し、ヒロインであるシータ姫が身の潔白を証明するために炎に身を投じた際には、シータ姫に加護を与え守りました。
ハヌマーン
「ラーマーヤナ物語」に登場する神猿です。風神ヴァーユが天女アンジャナーとの間にもうけた子と言われています。文武両道で高速飛行もでき、弁の立つ知恵者でもあります。
ガネーシャ
シヴァ神の子であり、四本の腕と象の頭を持つ神です。遺跡にはほぼ登場しませんが、学問や豊穣、商売繁盛の神として人気が高く、土産物屋でもよくその姿を見かけます。
遺跡に登場する神々の姿
実際に遺跡に登場している神々の姿を見てみましょう。ぜひ実際に訪れた際には、自分の目でも探してみてください。
ナーガ
ほとんどの遺跡で見かける蛇神です。ヒンドゥー教と仏教の両方で祀られる有名な守護神であり、遺跡だけでなく道路などでも見かけます。遺跡等の欄干はナーガ像の一部でもあるので、登ったり座ったりしないように注意!
ガルーダ
ヴィシュヌ神に仕える神鳥です。人の身体に鳥の頭と翼を持ちます。ヒンドゥー教において、ガルーダとナーガは宿敵とされており、ナーガを踏みつける様子のレリーフもあります。
シンハ
獅子(ライオン)の神獣で、ナーガと同じくほとんどの遺跡の入り口で見かけます。主要な聖域を悪霊から守る役割があると考えられてきました。
カーラ(ヤーマ)
日本では閻魔大王とも言われる存在です。ヒンドゥー教では、時間の神・死者の王としての役割を担っています。アンコール・ワットの第一回廊の「天国と地獄」でも死者を裁く姿が描かれています。そのほか、リンテルにもよく登場します。
ラーヴァナ
ヒンドゥー教の中でも有名な魔王です。10の頭と20の腕を持っています。シヴァの瞑想を妨げたり、叙事詩「ラーマーヤナ」の中では、ラーマ王子の妻であるシータ姫を誘拐したりしました。
デヴァター
神々に使える踊り子や女官です。多くの遺跡でその姿を見ることができます。デヴァターの服装や髪型などは、時代ごとに異なっているので、ぜひ特徴に着目してみてください。例えば、アンコール・ワットでは華やかな装飾が特徴的ですが、バイヨンのデヴァターは質素で慎ましい姿をしています。
アプサラ
アプサラは水の精・天女で、乳海攪拌の際に海の中から誕生したと言われています。踊っている姿が特徴的で、伝統芸能である「アプサラ・ダンス」もシェムリアップで人気を集めています。
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ベスト撮影スポットはどこ?
遺跡によって保存状態はさまざまで、残念ながら中には風化や盗難などによって、原型をとどめていないものもあります。
ここでは、比較的保存状態が良く、見応えたっぷりのおすすめ撮影スポットをご紹介します!
ベンメリア遺跡のナーガ像
多頭の蛇の姿をしたナーガで、すべてのパーツが揃っていることは珍しいです!ベンメリア遺跡のナーガは保存状態が良く、鋭い歯まではっきりと確認することができます。ベンメリア遺跡を訪れた際は、南側の入口の右手側を忘れずチェックしてください!
プリア・カン遺跡のガルーダ
プリア・カン遺跡の周壁に描かれた巨大なガルーダ像は圧巻です。一部は欠けてしまっていますが、ナーガと闘う姿が描かれています。かつて13世紀には、ガルーダの上に仏像も描かれていたそうです。
バンテアイ・スレイ遺跡のレリーフ
バンテアイ・スレイ遺跡と言えば「東洋のモナリザ」と呼ばれるデヴァター像が有名ですが、それ以外のレリーフもとても見応えがあります。神話を描いたリンテルや緻密な彫刻は要チェック!足元に注意しながら、頭上の彫刻に注目してみてください。
もちろん上記以外にも見応えたっぷりのポイントはたくさんあります!現地のツアーガイドさんに同行してもらうと、実際に現地で場所を教えてもらえるので、はじめて訪れる方にはおすすめです。
知っておくと楽しいヒンドゥー教の神話など
アンコール遺跡群には、ヒンドゥー教の神話や有名な叙事詩が描かれていることが多いです。
大まかなストーリーだけでも知っておくと、実際にカンボジアで目にした時にさらに楽しめるので、ぜひ簡単にチェックしておきましょう!
ヒンドゥー教の世界創造神話「乳海攪拌」
アンコール・ワットの第一回廊に描かれた巨大壁画が最も有名ですが、実は遺跡のさまざまな場面でも表現されています。
アンコール・トムの南大門の乳海攪拌の様子も有名ですね。
太古の昔、神々とアシュラ族は不老不死の妙薬「アムリタ」を巡って壮絶な争いを繰り広げていました。しかし、双方ともに戦いに疲弊してしまい、ヴィシュヌ神に助けを求めます。するとヴィシュヌ神は「互いに協力して海をかき混ぜれば、アムリタを得ることができる」と告げました。
神々とアシュラはヴィシュヌ神に従い、協力することを決めました。軸棒であるマンダラ山にヴァースキ(大蛇)を巻きつけ、クールマ(亀)で軸棒の底を支えて、頭と尾の両端を綱引きのように引っ張ります。神々は尾の方を、アシュラ族は頭の方を持つことになりました。ヴァースキは口から猛毒を吐き出すため、アシュラ族は苦しみましたが、シヴァ神が猛毒を飲み込んでくれました。
攪拌を続けること1000年、しだいに海からさまざまなものが誕生し始めます。良質なバターであるギー、ヴィシュヌ神の妻となるラクシュミー、アプサラ(水の精)、ソーマ(酒)、太陽、月などが生まれ、最終的にはアムリタを持ったダンヴァンタリ神も現れました。
アシュラ族は何とかしてアムリタを奪おうとしましたが、ラクシュミーに化けたヴィシュヌ神に騙され、アムリタを奪われてしまいます。結局、神々だけでアムリタを飲んでしまい、アシュラ族は不老不死を得ることはできませんでした。
インド古代叙事詩『ラーマーヤナ』
インドの叙事詩である『ラーマーヤナ』の物語はとても有名で、カンボジアに限らずさまざまな国や地域にも伝わっています。例えば、インドネシア・バリ島のケチャダンスも『ラーマーヤナ』が題材になっています。
アンコール・ワット第一回廊にもラーマーヤナの物語の場面が描かれているので、ぜひストーリーを思い出しながら観察してみてください。カンボジアでは『リアムケー』と呼ばれることもあります。
コーサラ国王の長男である王子ラーマは、美しいシータ姫を妻に迎えます。しかし、陰謀によりラーマ王子は王位を奪われ、シータ姫と一緒に森で隠遁生活をすることになりました。
ある日、ランカ島の魔王ラーヴァナにシータ姫を奪われてしまいます。ラーマ王子は神猿ハヌマーンの力を借り、シータ姫奪還のためにランカ島に向かいました。様々な困難を乗り越え、最終的にラーヴァナを倒し、シータ姫をようやく取り返します。
ところが、ラーマ王子は、ラーヴァナの側に長い間身を置いていたシータ姫の貞操を疑い、妻として受け入れることを拒みました。嘆いたシータ姫は炎の中に身を投じて、自身の潔白を証明します。火の神アグニがシータ姫に加護を与え、潔白を証明したため、シータ姫は無事にラーマ王子の元に帰ることができました。
インド古代叙事詩『マハーバーラタ』
『マハーバーラタ』も古代インドの叙事詩です。
原本はサンスクリット語で書かれていて、18編 10万頌の詩句から成り、世界最長の叙事詩と言われています。紀元前2世紀中頃〜紀元後1世紀末頃に完成しました。
アンコール王朝は、古代インドの思想や文化の影響を強く受けているため、こうしたインドの神話や叙事詩のモチーフが寺院でもよく用いられています。『マハーバーラタ』を題材にしたレリーフとしては、アンコール・ワットの第一回廊が有名です。
かつてある国で2つの一族が王権をめぐって争いを続けていました。アルジュナを中心とした光の一族であるパーンダヴァ軍(5人の王子)とドゥリヨーダナを中心とした闇の一族カウラヴァ軍(100人の王子)による戦いは大戦争へと発展していきます。
戦いの10日目、両軍の長老かつ大戦士であったヴィーシュマが無数の矢に射抜かれて命を落としてしまいました。ヴィーシュマは息を引き取る直前にパーンダヴァ軍の勝利を予言します。
ついに迎えた最終決戦の場、ヴィシュヌ神が姿を現しました。ヴィシュヌ神は両軍に手助けをすることを決めます。パーンダヴァ軍はヴィシュヌ神自身を求め、カウラヴァ軍はヴィシュヌ神の持つ軍隊を求めました。ヴィシュヌ神は、自身の化身の一つであるクリシュナとして戦に身を投じ、アルジュナを導く役割を果たします。
18日間にもわたる戦いの末、戦いはパーンダヴァ軍の勝利に終わりました。
遺跡に登場するヒンドゥー教の神々|まとめ
カンボジアの遺跡は単純に見るだけでも楽しいですが、その背景を知っているとさらに何倍も面白くなります!もっと詳しく知りたいという方は、ぜひ書籍などを使って調べてみてください。
また、観光ガイドさんにツアーをお願いすると、遺跡の案内だけでなく、おすすめの写真スポットなども紹介してくれます。
ガイドブックなどで探してもなかなか自分では見つけられないことが多いので、人気スポットを見逃したくない方はぜひ観光ガイド付きのツアーも検討してみてはいかがでしょうか。
現地ツアーを上手に活用!
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ぜひ遺跡を観光する際には、それぞれの遺跡にどのような神々が描かれているのか、探してみてください。より探検気分が味わえるはずです!