バンテアイ・スレイは、10世紀に建てられた寺院で、「東洋のモナリザ」と呼ばれる美しいデバター(女神)像が有名です。「アンコールの宝石」と呼ばれることもあるほど、その芸術性は高く評価されています。
シェムリアップ市内からは、やや離れた位置にありますが、それでも一目見ようと訪れる観光客は絶えません。アンコール遺跡群の中でも特に見逃せない寺院の一つです。
バンテアイ・スレイってどんな遺跡?
建立の歴史
バンテアイ・スレイ遺跡は、976年頃にラージェンドラヴァルマン2世とジャヤヴァルマン5世に支えていたバラモン(高僧)ヤジュニヴァラーハとその弟によって建立されました。ヤジュニャヴァラーハは多くの学問に精通していて、二人の王の師にあたる存在でもあったと言われています。
この時代は、王以外が寺院を建立することも多く、バンテアイ・スレイはそうした寺院の一つです。バンテアイ・スレイは他の遺跡と比較すると規模がやや小さめですが、王に対する敬意と配慮であるとも考えられています。
Klook.com「東洋のモナリザ」盗難事件
実はバンテアイ・スレイ遺跡が一躍有名になったのは、「東洋のモナリザ」盗難事件がきっかけでした。
1923年、フランスの冒険家であり小説家であったアンドレ・マルローが、デバター像を盗み出し、国外に持ち出そうとしていることが発覚したのです。この事件をきっかけに、バンテアイ・スレイの美しいデバター像に注目が集まり、人々を魅了するその姿から「東洋のモナリザ」と呼ばれるようになりました。
本国フランスでの署名運動により減刑され、刑期を終えたマルローはフランスに帰国。自身の体験を元にした小説『王道』を執筆しました。
バンテアイ・スレイまでの行き方
シェムリアップから北側に約40kmの位置にあります。
車またはトゥクトゥクで1時間弱かかります。郊外にあるため、下記の遺跡や観光スポットとセットで訪れることが多い場所です。
バンテアイ・スレイ自体は小規模の寺院なのですが、周辺の環境と景観保持のために、この辺りの敷地は公園のように整備されています。
駐車場で降りてから、売店エリアを通り抜け、案内表示に従って進むと遺跡の入り口にたどり着けます。
敷地内には整備されたトイレがあります!移動時間が長くなりがちなので、バンテアイ・スレイに立ち寄った際に利用すると便利です。
他の遺跡とセット観光がおすすめ
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Klook.comバンテアイ・スレイの見どころ!
バンテアイ・スレイの特徴はなんと言っても、その緻密で華やかな装飾です。
10世紀に創建されたとは思えないほど保存状態が良く、根強い人気を誇る遺跡の一つになっています。
バンテアイ・スレイで使用されている赤色砂岩は、通常の砂岩よりも硬質です。
そのため細かい彫刻が可能になり、良好な状態で保存することができたと言われています。小規模の寺院であるからこそ、必要な量の高級砂岩を調達することができました。
遺跡の全体像
遺跡は東側が正面になっており、参道をまっすぐ進み、第1周壁と第2周壁をくぐり抜けると中央エリアにたどり着きます。
コンパクトな造りながら見所の多い遺跡なので、ぜひじっくり時間をかけて鑑賞してみてください。
基本的に屋根が無いので、日中は熱中症などに気をつけてください。帽子があると快適ですよ!
水量がある時期(雨季など)には、環濠に水が溜まっており、外から見たバンテアイ・スレイの姿もとても優美です。
水面に映る赤色の遺跡と空の色のコントラストがとても映えます。
バンテアイ・スレイでは遠近法をうまく活用し、遺跡を実物よりも大きく見せる技術が使われました。
実は入口から奥に向かうにつれて、門の高さが少しずつ低くなるように建てられています。奥の建物をより小さく見せることで、遠くから訪れた人が大きさを錯覚できるようにしたのです。
参道エリア
参道エリアの両脇にはかつて屋根で覆われた通路があったと考えられています。
ガラスのようなタイルを木造の屋根が支えていたそうです。現在は赤色ラテライトの石畳と昔の柱、そして灯籠のようなものが残っています。
バンテアイ・スレイでは遺跡の至る所に細やかな装飾が施されています。特に破風やリンテルの装飾が見事なので、ぜひ一つひとつチェックしてみてください。
【破風 – Pediment】
切妻屋根の端につけた山形の板
【まぐさ石 – Lintel】
2つの支柱の上に水平に渡されたブロック
3つの頭を持つ像に乗るインドラ神
アイラーヴァタはインド神話に登場する白い象で、インドラ神のヴァーハナ(神の乗り物)として知られています。
ヴィシュヌ神がヒラニャカシプを倒す場面
美しい王子の姿をしているのがアシュラ(悪魔)ヒラニャカシプであり、ヴィシュヌ神は自身の化身であるナラシンハ(獅子)の姿に変身しています。
第2周壁エリア
中央に続く門のような建物に見所が集中しています。足元に注意しながら、頭上のリンテルや破風に目を向けてみてくださいね。
ガルーダの上のラクシュミー
左右に伸びる蔦を手にしたガルーダの上にラクシュミー(ヴィシュヌ神の妻)が座っています。両脇には2頭の象がいて、壺からラクシュミーに聖水を注いでいます。
ヴァーリンとスグリーヴァの戦い
ヴァーリンは猿の王で、スグリーヴァはその兄弟でした。スグリーヴァは、ラーマ王子(写真右側で弓を構えた人物)の支援を受けて、ヴァーリンに戦いを挑み勝利します。最後に近くに潜んでいたラーマ王子の放った矢によって、ヴァーリンは射殺されました。
魔王ラーヴァナに拐われてしまったシータ姫を探すために、ラーマ王子とラクシュマナ(ラーマの異母弟)が森の中を彷徨っていると、スグリーヴァという猿に出会いました。
スグリーヴァは、ラーマ王子たちに自分の身の上を話して聞かせました。スグリーヴァは、かつてキシキンダー(猿族の都)の王でしたが、兄猿ヴァーリンに王位を奪われ、国を追放されてしまったことを語りました。王位だけでなく妻までも奪われたことを聞き、ラーマ王子は自身の境遇と重ね合わせ、スグリーヴァに同情します。
ラーマ王子とスグリーヴァは友情を結び、ラーマ王子はヴァーリンを倒すことを約束しました。一方でスグリーヴァは、ラーマ王子の約束が果たされた後、シータ姫の救出に力を貸すことを誓います。
彼らはキシキンダーに戻り、スグリーヴァはヴァーリンに勝負を挑みました。勝負はヴァーリンが優勢でしたが、物陰に潜んでいたラーマ王子が矢を放ち、ヴァーリンは命を落とします。その後、スグリーヴァは王国と妃を取り戻し、後継にはヴァーリンの子であるアンガダを据えました。
スグリーヴァはラーマとの約束を果たすため、各地の猿を召集し、シータ姫の捜索隊を世界中に派遣します。猿の将軍ハヌマーンの働きにより、シータ姫がランカ島に囚われていることが明らかになると、スグリーヴァたちはラーマ王子に従い、猿の軍隊を引き連れて戦いに臨みました。
中央祠堂と経堂
ここからいよいよ中央エリアです。3つ横に並んだ中央祠堂と2つの経堂が存在します。ここにはヒンドゥー教の神話に基づいたレリーフがたくさんあるので、ぜひ解説付きで鑑賞してみてください。
見落としがちなポイントも多いので、バンテアイ・スレイはガイド付きの鑑賞がオススメですよ!
カンダヴァ森の火事の場面
古代インドの叙事詩「マハーバーラタ」の物語の一部です。火神アグニがカンダヴァ森に住むナーガを殺すために火事を起こしました。
しかし、象に乗ったインドラ神は、友人であるナーガの王タクシャカを守るために雨を降らせ、アグニの企てを防ごうとしました。一方で、戦車に乗ったクリシュナたち(下段両脇)は無数の矢を放ち、雨を防ごうと対抗しています。
シヴァ神にカーマが矢を射る場面
上段の中央祭壇に座っているのがシヴァ神で、その横には妻であるウマが控えています。シヴァ神の右側で弓を構えているのが愛の神であるカーマです。さらにカーマの後ろには、彼の妻であるラティがいます。
当時、1人目の妻サティを亡くしたばかりのシヴァ神はヒマラヤ山で苦行に打ち込んでいましたが、サティの生まれ変わりであるパールヴァティとシヴァを結婚させるために、他の神々がカーマを送り込んだのです。カーマの矢は砂糖で作られていて、この矢で射られると恋心を抱くようになると言われています。
見事1本目の矢を命中させたカーマでしたが、残念なことにシヴァに焼き殺されてしまいました。嘆き悲しんだラティがパールヴァティに頼んで、カーマを復活させることができました。
魔王ラーヴァナがカイラシュ山を揺らす場面
複数の手と頭を持ち、一番下で暴れているのが魔王ラーヴァナです。周囲の動物たちは怯えて逃げようとしています。その上の段には、動物の頭をした信者たちや高僧がいて、ラーヴァナを指差したり、祈りを捧げていたりしています。
最も高い位置にいるのがシヴァ神とその妻ウマです。シヴァ神は自身の右足でカイラシュ山を固定しようとしています。
クリシュナがカムサ王を倒す場面
中央で揉み合っている人物のうち、左側がクリシュナで、右側がカムサ王です。クリシュナはヴィシュヌ神の8番目の化身(アバター/アバタラ)として知られています。
カムサ王はあるとき「自分の妹デーヴァキーが産んだ息子であるクリシュナに倒される」という予言を聞き、デーヴァキーを監禁しました。デーヴァキーは監禁された部屋でクリシュナを産み、ひそかに脱出させました。里親のものとで成長したクリシュナは再び王国に舞い戻り、復讐のために伯父であるカムサを打ち倒します。
予言を防ごうとしたカムサの行動が逆に予言を実現させてしまったのです。
遺跡の守護神たち
中央祠堂の周りには、いくつも守護神たちが鎮座しています。ヴィシュヌ神の乗り物であるガルーダ、獅子のシンハ、猿のハヌマーンなど多様な坐像が確認できます。
計24体の美しい神像
バンテアイ・スレイといえば「東洋のモナリザ」をはじめとした美しいデバター(女神)や門衛神デヴァラパーラの彫刻です。
デバターはあらゆる遺跡で描かれていますが、それぞれに特徴があります。バンテアイ・スレイのデバターは質素ながら丸みを帯びた体つきと柔和な表情がとても魅力的です。
盗難事件で有名になった「東洋のモナリザ」は北側の中央祠堂にあります。実物は意外と小さく、遠くからは確認しにくいのですが、ぜひ探してみてくださいね。
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中央祠堂エリアは、遺跡保護のため立ち入ることができません。「東洋のモナリザ」などをじっくり観察したい場合には、双眼鏡や望遠レンズなどがあると便利です。
バンテアイ・スレイ遺跡のポイントまとめ
バンテアイ・スレイは「クメール芸術の至宝」とも言えるほど、歴史的だけでなく芸術的にも評価の高い遺跡です。精緻で優美なレリーフの数々は息を呑むほど美しく、独特の世界観に惹き込まれます。
ヒンドゥー教の神話などを題材にしたモチーフが多いので、ガイド付きで観光するか、事前に予習をしておくとさらに楽しめるはずです。
ぜひシェムリアップを訪れた際には、クメール芸術の最高傑作にも足を運んでみてください!
遺跡の敷地内には、ボートに乗れる池やレストラン、土産物屋などもあります。休憩がてら自然の中でゆっくりと過ごすのもオススメですよ!
バンテアイ・スレイの彫刻はストーリー性もあって、見応えたっぷりです!ぜひこのページで鑑賞ポイントを確認してくださいね!