トマノンは12世紀にスールヤヴァルマン2世によって創建されたヒンドゥー教寺院です。
フランス極東学院により10年以上の歳月をかけて修復作業が行われ、建設当時に近い姿を今も残しています。
特徴的なデザインの破風やリンテルが見どころです!優美で華やかなデヴァター像も見逃せません。
トマノンってどんな遺跡?
トマノン寺院は、アンコール・トム周辺の遺跡ではややマイナーな部類ですが、保存状態が良く、ひそかに高い評価を得ている遺跡です。
アンコール・ワット様式の小寺院
トマノンの正確な建築年は判明していませんが、スールヤヴァルマン2世の治世下、アンコール・ワットとほぼ同じ頃に建築が開始されたのではないかと言わせています。そのため、両者の構造や装飾には類似点が多いです。
また、トマノンのすぐ近くにあるチャウ・サイ・テヴォーダも同時代に創建されました。
チャウ・サイ・テヴォーダは、トマノンをより発展させた構造をしていることから、トマノンよりもやや後に造営が開始されたのではないかと推測されます。トマノンは、塔門や拝殿、中央祠堂がほぼ東西一直線に並ぶ構造をしていますが、チャウ・サイ・テヴォーダはそれらに加えて空中参道や2つの経蔵が配置されています。
トマノンとチャウ・サイ・テヴォーダは、もともと対になるそうに創建されたのではないかとする説もあります。両者の類似点と相違点にそれぞれ着目しながら鑑賞するとより楽しめそうですね!
フランス極東学院[EFEO]が修復
トマノン寺院は、1960年代にフランス極東学院(École française d’Extrême-Orient:EFEO)によって大規模な修復がされました。フランス人考古学者であるベルナール=フィリップ・グロリエが主導し、コンクリートの天井などを加えたとされています。
修復作業は10年以上の歳月をかけて行われ、その結果12世紀当時に近い状態に再現されました。もちろん壁面の装飾など、劣化して失われた部分は多々ありますが、そうした点を差し引いても、ひじょうに保存状態の良い遺跡と言えるでしょう。
EFEOとは?
フランス極東学院(École française d’Extrême-Orient)は、フランス高等教育研究省の管轄下にある科学的、文化的、専門的な公共研究機関です。アジア地域の諸文明の研究を目的としています。
その前身は、1898年にサイゴンに設立された「インドシナ考古調査団」であり、1900年に「フランス極東学院」に改称されました。アンコール・ワットをはじめとするカンボジアの遺跡の研究にも大きく関与しています。
トマノンへの行き方
トマノンは、アンコール・トムの東側にある「勝利の門」を抜けて500mほど進んだ位置にあります。
すぐ南側には、チャウ・サイ・テヴォーダと呼ばれるほぼ同時期に建てられた遺跡があります。こちらもトマノンと同じくスールヤヴァルマン2世によって創建されたと言われており、両者には構造的にも装飾的にも共通している部分がたくさんあります。
トマノンは「小回りコース」に含まれる遺跡です。
アンコール・ワット周辺の主要な遺跡を効率的に観光するためのルートが設置されています。下記の赤色のアイコンが「小回りコース」の遺跡です。
ただし、トマノンやチャウ・サイ・テヴォーダなどの小規模寺院は、一般的な観光ツアーだと省略されてしまうことが珍しくありません。
トマノンやチャウ・サイ・テヴォーダを観光するなら、貸切のツアーかトゥクトゥクのチャーターがおすすめです!
トマノンの見どころ&特徴は?
トマノンは小規模寺院でありながら、その洗練された美しさと保存状態の良さから、ひそかに高い評価を得ている遺跡の一つです。
コンパクトな遺跡に魅力がぎゅっと詰まっているので、ぜひじっくり堪能してくださいね!
Klook.com破風に残されたレリーフ
トマノンに来たら、絶対に見逃せないのが貴重な破風のレリーフの数々。今回の記事ではその中でもオススメの一部をご紹介します!
まず、西塔門の南側にある破風(下の写真)に着目してみてください。上の方にあり、少し見えにくいかもしれませんが、カメラの拡大機能や双眼鏡を使うとはっきり見ることができます。
中央で瞑想している人物はシヴァ神です。髭を生やした姿で描かれています。その周囲ではアプサラが軽やかに舞っています。破風の両脇のナーガの姿も見事ですね。
西塔門の西側には、ヴィシュヌ神が描かれています。欠けてしまっている部分が多々ありますが、ヴィシュヌ神がガルーダに乗ってアシュラたちと戦っている様子です。
中央祠堂の南側にある経蔵にもぜひ目を向けてみてください。東側の破風には『ラーマーヤナ』の一場面と思われるレリーフが残っています。中央にいるのがラーマ王子、その左側がシータ姫、右側にいるのがラクシュマナ(ラーマの異母弟)です。*ラーマ王子ではなく魔王ラーヴァナとみなす説もあります
同じく経蔵の西側の破風には、ヒンドゥー教の創世神話「乳海攪拌」の場面が描かれています。中央で采配を振るヴィシュヌ神の両脇にいるのは、太陽の神スーリヤと月の神チャンドラです。
珍しい構図のリンテル
「トマノン寺院の一番の見どころ!」と言っても過言ではないほど見事なのは、中央祠堂の中にあるリンテルです。
両脇から中央に向かって伸びる葉飾りの先端がマカラの頭になっています。マカラの口からは蛇神ナーガが生えていて、さらにその上には神鳥ガルーダが描かれています。ガルーダの上に立っているのはヴィシュヌ神です。
ほかの寺院では目にすることのない珍しい構図です。彫りが深く躍動感のある左右対称の構図は、数ある遺跡のレリーフの中でも間違いなくトップクラスの完成度と言えるでしょう。
拝殿にあるリンテルのレリーフも、ユニークで美しいので、ぜひチェックしてみてください。鰐に襲われた象の王ガジェンドラをヴィシュヌ神が助ける場面が描かれています。
優美なデヴァター像
トマノンにも、ほかの遺跡と同様に美しいデヴァター像が描かれています。
破損して原型を留めていないものも少なくありませんが、中央祠堂の西側は比較的状態の良いデヴァター像が多いです。
よく観察してみると、異なるデザインのデヴァター像が混在していることに気づきます。
1つは、アンコール・ワット等でよく見かけるタイプのデヴァター像です。大きく華やかな髪飾りと模様のついたサンポット(スカート)を身につけています。
もう1つは、バケン様式に似たデヴァター像です。ひだがたくさん描かれたサンポット(スカート)を身につけています。
このように異なる2つの様式が混在していることから、トマノンやチャウ・サイ・テヴォーダが創建された時期は、クメール美術の一種の過渡期だったのではないかと考えられます。
シンプルながら洗練された構造
トマノンは、ほかの平地型寺院と比べるとシンプルな構造をしています。塔門や拝殿、中央祠堂が東西一直線に並ぶ形です。中央祠堂の南側に経蔵が1つだけあります。
余計なものを削ぎ落としたシンプルな構造は、かえって壁面や破風などの装飾を際立たせ、洗練された印象を与えます。
また、平地型の寺院でありながら、基壇部が高めに設定されています(約2.5m)。実際にその場に行くと結構高く感じるので、遺跡そのものも迫力があります。
トマノン遺跡|まとめ
小回りコースに含まれる小規模寺院トマノンの歴史や見どころについてご紹介しました!
コンパクトな造りながら見どころが凝縮されていて、ひじょうに見応えのある遺跡です。ぜひ同時代に創建されたチャウ・サイ・テヴォーダと比較しながら鑑賞してみてください。
観光客の数が少なめなので、落ち着いてじっくりと写真撮影を楽しみたい方にもオススメです!中央祠堂の窓枠などを利用すると、味わいのある遺跡ならではの写真が撮れます。
Klook.com
観光スケジュールに多少余裕のある方や遺跡が好きな方は、ぜひトマノンにも足を運んでみてください!