東メボンは、ラージェンドラヴァルマン2世によって10世中頃(952年)に建てられたヒンドゥー教寺院です。最上部の祠堂ではシヴァ神と祖先の霊が祀られています。
東メボンは、東バライと呼ばれる巨大な貯水池の中央に建てられました。現在は貯水池の水が涸れていますが、かつては水面に反射した陽の光によって輝くような姿をしていたそうです。別名「ゴールデンマウンテン(黄金の山)」と呼ばれることもありました。
東メボンってどんな遺跡?
まずは東メボン遺跡がどうのようないせきなのかを確認しましょう。
東バライの中央に浮かんでいた
東メボン寺院は、「東バライ」と呼ばれる巨大な貯水池の中央にある人工島に建てられました。
現在は貯水池の水が干上がってしまっていますが、かつては水に浮かぶような姿をしていたと言われています。
東バライに水が満たされていた当時、人々は船を使って東メボンを訪れていました。正面の入り口である東門に船を停めていたと考えられています。
外側の周壁には、かつての水位を示す跡が確認されています。ラテライトの色が変わっているので、ぜひチェックしてみてください。
水に浮かぶ寺院はさぞ神秘的な姿だったにちがいありません!
かつて東メボンは「ゴールデンマウンテン」とも呼ばれていました。水面に反射する寺院の姿が日に照らされて輝いていたのかもしれませんね。一説によると、中央祠堂は金箔に覆われていたのではないか、とも言われています。
東メボンを建設したのは、ラージェンドラヴァルマン2世です。10世紀中頃(952年頃)に完成したと言われています。
ラージェンドラヴァルマン2世は、自身の伯父であるヤショーヴァルマン1世を尊敬していたそうです。そうした尊敬の念を込めて、東バライ(=ヤショーダラタターカ)の中央に寺院を建設したのかもしれませんね。
プレ・ループ寺院との比較
東メボンの大きさは東西126m・南北121mで、3つの周壁と3つの基壇を持った構造になっています。
これは、同じくラージェンドラヴァルマン2世が建設した「プレ・ループ寺院」とよく似た構造です。東メボンが建てられた約9年後、プレ・ループ寺院が建てられました。
両者を比較してみると、3段の基壇の最上層に5つの祠堂が配置されている点、中央祠堂にシヴァ神が祀られている点、四方の副祠堂に祖先が祀られている点など、共通点がとても多いです。
規模としては東メボンの方が小さく、プレ・ループの方がよりインパクトの強い印象です。プレ・ループはうまく視覚効果を活用し、スケールの大きさを強調しています。
ぜひ両方を実際に訪れてみて、それぞれの違いを感じてみてください!
東メボンへの行き方
東メボン寺院まで、トゥクトゥクや車で訪問すると街から約25〜30分です。
かつては貯水池の中央に建てられていましたが、現在は水が涸れているため、ふつうに陸路で訪問することができます。東メボンからプレ・ループまでは約1.5kmの距離があります。
駐車場は遺跡の東側(正面)にあるので、そこから訪問するのが一般的です。正面の東楼門から入り、そのままぐるっと一周巡る形で観光できます。
東メボンは、「大回りコース」と呼ばれる観光ルートに含まれる遺跡です。「大回りコース」には特色ある遺跡がたくさん含まれているので、ぜひセットで観光してみてください!
特に構造が似ているプレ・ループ寺院とあわせて観光すると、よりそれぞれの違いを楽しむことができます。
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東メボンの見どころ・特徴
東メボンには、以下のような見どころ・特徴があります。
- 神々が刻まれた美しいリンテル
- 祠堂の内部
- デヴァターとドゥヴァラパーラ
- 寺院を守護する象や獅子
神々が刻まれた美しいリンテル
東メボンの祠堂は主にれんがで造られていますが、リンテル(まぐさ石)や側柱(コロネット)、偽扉などの装飾部分は砂岩が用いられています。
1000年以上前に建設されたにも関わらず、細やかで美しい彫刻が今もなお残っているので、ぜひ注目してみてくださいね!
下記のリンテルの中央にはガルーダらしき存在が大きく描かれています。リンテル自体は多くの遺跡に存在しますが、ちょっと珍しいデザインですね。
孔雀に乗ったスカンダ(もしくはガチョウに乗ったヴァルナ)らしきものが描かれているリンテルもありました。その下にはカーラ、ナーガが描かれています。リンテルの両脇にはナーガに囲まれたガルーダも登場しており、ひじょうに凝ったデザインです。
下記のリンテルは、ヴィシュヌの化身の一つであるナラシンハが、美しい王子に化けた悪魔ヒラニャカシプを倒している場面です。同様のシーンはバンテアイ・スレイでも描かれています。
祠堂の内部もチェック!
遺跡を訪れたらぜひ祠堂の中もチェックしてみましょう。各祠堂の入り口は東側に設置されており、それ以外の方角には偽扉の装飾が施されています。
祠堂の中には、後世に持ち込まれたのであろう仏像が安置されていました。ナーガの上で瞑想する仏陀のモチーフはカンボジアでよく見かけます。
当時は祠堂の中にリンガ(シヴァ神の象徴)などが安置されていたと考えられています。
ぜひ祠堂の上部もチェックしてみてください。れんがを少しずつ内側に押し出す形で屋根が形作られています。このような建築方法では、屋根に当たる部分が縦に長くなります。
かすかに面影を残すデヴァターとドゥヴァラパーラ
残念ながら、東メボンにはあまり良い状態のデヴァター像は残っていません。かろうじて当時の面影を残す箇所が見受けられます。
デヴァター以外にも、ドヴァラパーラ(門衛神)のレリーフも一部には残っています。これらには門番として、聖域を守る役割がありました。
寺院を守護する象や獅子
東メボンにおいて、特徴的なのは基壇の四隅に配置された象の石像です。
同じくラージェンドラヴァルマン2世が修復に関わったピミアナカスにも類似のものがありますが、東メボンの象たちは保存状態が良くきれいに残っています。
こちらの象は当時の本物と同じサイズだと言われています。ぜひ間近で確認してみてくださいね!
象だけでなく、階段の両脇にはシンハ(獅子)も配置されています。こちらも保存状態が比較的良いです。ぜひ忘れずにチェックしてみてくださいね!
東メボン遺跡まとめ
大回りコースの見どころの一つである「東メボン寺院」をご紹介してきました!
それほど規模の大きい寺院ではありませんが、細やかなリンテルの装飾や保存状態の良い象の彫像など見どころは多いです。
ぜひかつての広大なバライの水面に浮かんでいた姿を想像しながら、足を運んでみてくださいね!
「東バライ」はアンコール・トムの東側に位置する貯水池で、ヤショーヴァルマン1世によって900年ごろに造られました。別名「ヤショーダラタターカ」とも呼ばれます。その大きさは、東西7150m・南北1740mに及び、アンコール地域で2番目に大きいバライです。
現在は水が干上がっていますが、衛生写真でははっきりとその痕跡を確認することができます。バライの水は「灌漑用であったとする説」と、「宗教的な象徴としての役割があったとする説」の両方がありますが、真偽は定かではありません。